レナとまほうの歌のプリンセス~いっしょに歌えばみんな友だち!~

「どうしたの?」
「見ればわかります! はやくはやくー!」

 ぴょんぴょん跳ねるトトにみちびかれてバルコニーへと向かいます。
 するとそこには見渡す限り、色とりどりの花が元気よく咲いていました。

「うわあ……っ」

 赤、青、黄色。レナがまだ見たこともない色の花も咲いています。そしてすべての花は風にそよぐたびに歌っているのです。
 耳をすませば、それはレナがカノンと歌ったものでした。花が歌うと草が芽吹き、木となります。あっという間に実をつけたそれはうっとりと甘い香りをただよわせているのでした。

「さあ、レナ。お花畑に行ってみましょう」
「うん」

 階段で下りるのだと思っていたレナは、らせん階段の方へ行こうとします。しかしカノンはそれを止めると、どこからか銀のタクトを取り出しました。
 オーケストラの指揮者のように、びしっとポーズを決めるカノン。きりっとした声でレナに呼びかけます。

「いくわよー……いちに、さんはい!」

 ビューンとカノンがタクトを振ります。するとレナとカノンはふわふわと宙に浮いたのです!

「きゃあ! すごい、カノン! こんなこともできるの!?」
「ええ! レナが目覚めさせてくれたミューズ・ツリーの力のおかげ。さあ花畑へひとっとびよ!」

〈やってみよう!〉
 カノンがタクトでえがいた形と同じ図形を探してみよう!
 
 カノンのタクトがリズムをきざみます。するとふたりの体はぴょんぴょんと弾みながらお花畑に飛び込んだのでした。
 
 ぼふーん!
 
「ひゃあっ」
「うふふ、楽しいわ! こんな気持ち、久しぶり!」

 くったくなく笑うカノンの笑顔に、レナはおどろきながらもあたたかい気持ちになりました。

(カノン、楽しそう)

 はじめて会った時、今にも切れてしまいそうな弦のように張りつめていたカノンの表情。それが今ではにこにこと羽根のように柔らかく、花のようにほがらかに笑っています。

「カノン……きれい」
「えっ?」
「初めて会った時も、きれいなお姫様だなって思ったけど……今のカノンは、もっときれい。歌に囲まれてみんなが笑顔になれる。カデンツァ王国って、本当にステキなところなんだね」

 太陽のまばゆい光に照らされたカノンは、プリンセスの気品と気さくな笑顔が素敵な、チャーミングな女の子です。
 そんな彼女が歌えれば、もうカデンツァ王国は大丈夫。
 そんな安心感でレナは胸が熱くなりました。
 そこにぴょんぴょんと跳ねながらトトがやって来ます。
 
「レナさん……カデンツァ王国を、いえ、カノン姫を助けてくださって、ほんとうにありがとうございます」
 
 改まった言葉づかいでトトはベレー帽を脱いで胸に手を当て、きれいなお辞儀をしました。するとトトの耳でイヤリングがシャランと澄んだ音色を奏でます。
 
「あっ!」
 
 レナはその音を聞いて思い出しました。
 トトからイヤリングの片割れを借りたままだったのです。カノン姫の部屋に入る前に力のおすそ分けでトトが貸してくれたものでした。
 
「ごめんなさい、私、忘れるところだった」
 
 慌ててレナがイヤリングを返そうとすると、トトは首を横に振りました。
 
「それはレナさんにさしあげます。あちらとこちらをつなぐカギとしてお使いください」
「あちらとこちらをつなぐ、カギ……?」
 
 どういうことでしょうか。レナがきょとんと首を傾げると、トトはポケットから小さな時計を取り出します。
 
「ええ。だってもう、夕焼けの時間です。あちらに戻らないと……レナさんを待っているひとがいるでしょう?」
「……!」
 
 そうでした。今日はいろんなことがあって忘れていましたが、レナは学校から帰るところだったのです。