七月二十六日、午前十一時。宮海から電車で二時間の国立大学研究室。亮佑と凪桜は、採取した海底コアサンプルを抱えて研究棟の扉を叩いた。
「どうぞ」と現れたのは、白髪交じりの地質学教授・柏木だった。長年海底プレートを研究している第一人者だ。
亮佑が資料を差し出し、簡潔に経緯を説明する。「この場所で掘削実験が計画されているんです。サンプルの分析をお願いできませんか」
柏木は無言でサンプルを受け取り、顕微鏡で観察し始めた。やがて小さくうなり声を上げる。「……やはりか」
「何かわかったんですか?」凪桜が思わず身を乗り出す。
「これは活断層直上の堆積物だ。非常に脆く、掘削すれば地殻変動を誘発する恐れがある。小規模でも海底崩落が起きれば、局地津波は避けられん」
凪桜は息を呑んだ。昨夜の腕輪の脈動が再び甦る。——誰かを守って。
「教授、この結果を公式にまとめていただけますか? 町議会に提出する証拠が必要なんです」亮佑が丁寧に頼む。
柏木は資料をまとめながら言った。「危険性を訴えるのは市民の義務だ。私も協力しよう」
その言葉に、凪桜は胸が熱くなった。特別な力がなくても、こうして町を守ろうとする人がいる。その思いが嬉しかった。
帰りの電車で、亮佑は窓の外を見つめたままつぶやく。「これで、もう引き返せないな」
凪桜は頷く。「うん。でも、絶対に守ろう」
遠ざかる海を見ながら、二人の決意はさらに固まった。
「どうぞ」と現れたのは、白髪交じりの地質学教授・柏木だった。長年海底プレートを研究している第一人者だ。
亮佑が資料を差し出し、簡潔に経緯を説明する。「この場所で掘削実験が計画されているんです。サンプルの分析をお願いできませんか」
柏木は無言でサンプルを受け取り、顕微鏡で観察し始めた。やがて小さくうなり声を上げる。「……やはりか」
「何かわかったんですか?」凪桜が思わず身を乗り出す。
「これは活断層直上の堆積物だ。非常に脆く、掘削すれば地殻変動を誘発する恐れがある。小規模でも海底崩落が起きれば、局地津波は避けられん」
凪桜は息を呑んだ。昨夜の腕輪の脈動が再び甦る。——誰かを守って。
「教授、この結果を公式にまとめていただけますか? 町議会に提出する証拠が必要なんです」亮佑が丁寧に頼む。
柏木は資料をまとめながら言った。「危険性を訴えるのは市民の義務だ。私も協力しよう」
その言葉に、凪桜は胸が熱くなった。特別な力がなくても、こうして町を守ろうとする人がいる。その思いが嬉しかった。
帰りの電車で、亮佑は窓の外を見つめたままつぶやく。「これで、もう引き返せないな」
凪桜は頷く。「うん。でも、絶対に守ろう」
遠ざかる海を見ながら、二人の決意はさらに固まった。



