【一時間後】
霧島が再び事務所に姿を現した。
簡単な挨拶を済ませ夜と霧島がソファに向かい合って座る。
健太は緊張しながら二人の前にコーヒーを置いた。
夜は健太が急いでまとめた資料をテーブルの上に並べた。
「まず結論から申し上げます」
夜は一枚の資料を指し示す。
「足立区の土地を買い占めている組織。その名は『金虎開発』」
そしてテーブルの上の金色のバッジを霧島の方へと滑らせた。
「そしてこれがその社のバッジです。本日実行犯の一人から拝借しました」
夜は淡々と続ける。
「代表は佐藤美玲という女。おそらくは中国籍から帰化した人物かと」
「そして彼女らの裏の顔。それが新興チャイニーズマフィア『チャイニーズ・タイガー』です」
霧島はただ黙って夜の報告を聞いていた。
やがて彼は深く息を吐く。
「なるほど……。だからあれだけの資金力が……」
「いや素晴らしい。山本さんに頼んで本当に良かった」
霧島はそこで少し言い淀んだ。
「それと……実は……」
「この件を引き受けた探偵事務所はウチで三件目」
夜がその言葉を遮った。
「なぜそれを?」
霧島の顔に初めて驚愕の色が浮かぶ。
「企業秘密です」
夜はふわりと笑った。その笑みはあまりにも美しかった。
「それとこちら今回の調査費用の領収書です」
「……はい。後日振り込ませていただきます」
霧島はもはや何も言うまいと観念したように立ち上がり深々と一礼をした。
そして事務所の扉の前で振り返る。
「やはりコーヒーが美味しい所は仕事が出来ますね」
彼はそう言うと今度こそ静かに去って行った。
健太はドアが閉まるのを確認すると夜に声をかけた。
「夜さん……あの人また何か隠してますよね?」
「あぁ」
夜は霧島が残していった名刺を指で弾きながらニヤリと笑う。
「一番肝心なことだ」
健太が不思議そうな顔で夜を見る。
「―――自分の会社がなぜ前の二つの探偵社のように襲撃されないのか。その理由をだよ」