八咫烏ファイル


【横浜中華街】
どれくらいの時間が経っただろうか
あれほど激しく鳴り響いていた銃声はもう聞こえない
戦場となった中華街の大通りには不気味なほどの静けさが戻りつつあった
だがそれは平和な静けさではない
死の静寂だった
煌びやかだったはずのネオンサインはそのほとんどが砕け散り火花を散らしている
路上にはハチの巣にされた高級車が何台も黒い煙を上げていた
レストランの窓ガラスは全て割れシャッターは無残に抉られている
そして道にはおびただしい数の死体が転がっていた
黒いスーツを着たCTの兵隊たち
派手なシャツを着た関東誠勇会の組員たち
もうその区別もつかないほど多くの命がアスファルトを赤黒く染めていた
硝煙の匂いと血の匂いそして肉の焼ける異様な匂いが混じり合い
むせ返るような死の空気が街を支配していた
その地獄の中心
関東誠勇会組長坂上 誠はただ静かに立っていた
そこへ獅子堂会組長梶原 龍二が血まみれの姿で走り寄る
「親父!ご無事で?」
「あぁ」
坂上は短く頷いた
「梶原。生き残った直系の組長全員に連絡してくれ」
「なんと連絡すれば?」
坂上は燃え盛るビルの一つを見据えながら静かにしかし力強く言い放った
「―――今から金虎開発ビルに乗り込む」
「CTの本当の頭のタマを取りに行くとな」
「!はい!分かりました!」
梶原は深々と頭を下げるとすぐに部下たちに叫んだ
「おい!オメーら!手分けして各組長に連絡だぁっ!」
「「「はいっ!」」」
部下たちが散っていく
その様子を見ながら坂上はぽつりと呟いた
「夜はまだこれからだ……」
その老いたしかし決して折れることのない伝説のヤクザの目は
この地獄のさらにその先を見据えていた