八咫烏ファイル


【夜探偵事務所・社用車内】
健太がハンドルを握る
助手席には璃夏
後部座席に小里
車内は重い沈黙に包まれていた
三人が三人ともそれぞれの主の身を案じ考え込んでいる
その沈黙を破ったのは璃夏だった
「この一件が起こる前……」
健太「え?」
小里がハッと顔を上げる
「関東誠勇会にCTが襲撃に来る前の話なんですけど」
健太「あはい」
「滝沢さんと私は」
璃夏は一度言葉を切りそして覚悟を決めたように言った
「CTの前のボス林 豪を暗殺しました」
「えぇぇぇぇっ!?」
健太は絶叫した
そうだ。この人たちはプロの殺し屋なのだ
その事実を改めて思い出す
「……それはうちの親父が依頼したシゴトですよね?」
小里が静かに確認した
「はい」
璃夏は頷く
そして続けた
「滝沢さんのシゴトは完璧でした」
「でもCTはその報復として関東誠勇会の仕業だと考えた」
健太はゴクリと唾を飲み話に聞き入っている
「証拠はないにせよ……疑われるのはうちの組になります」
小里が悔しそうに言う
「問題は林が亡き後CTのボスになった人間がとんでもない武闘派の男だった。ただそれだけの話で……」
「……考えたんですが」
今まで黙っていた健太が口を開いた
「夜探偵事務所もそうですけどここ数日関わっているのがCTに関係があった人たちばっかりなんです」
「はい」
璃夏が頷く
「そこに夜さんと滝沢さんへのあの謎の電話……」
「しかも私たちに聞かれたらまずい内容の……」
璃夏が付け加える
小里は腕を組み唸った
「……電話の相手はもしかして」
健太が一つ仮説を口にする
「CTだったのでは?」
「だとしたら……」
璃夏が続ける
「何かの交渉のために滝沢さんと夜さんは二人で呼び出された……」
「そしてその交渉が決裂した……!」
小里が叫んだ
「それです!」
健太が確信する
「だとしたら今頃滝沢さんと夜さんは……!」
璃夏の顔が青ざめていく
「急ぎます!」
健太はアクセルを床まで強く踏み込んだ
エンジンが唸りを上げ車は夜の新宿を猛スピードで駆け抜けていく
彼らはまだ知らない
その推理が全くの見当違いであることも
そして自分たちが向かっているその先で本当の地獄の釜の蓋が開かれようとしていることも