八咫烏ファイル


【ロイヤル街道・地下会議室】
巨大な円卓にただ一人座る男
日向 観世
彼の正面の巨大な壁面モニターにはいくつもの映像が分割して映し出されていた
炎上する警視庁
銃撃戦が繰り広げられる関東誠勇会本部
そして横浜の夜景を走る二つの光点
夜と滝沢のGPS信号だった
観世はその全てを静かに見つめている
まるで神が下界の出来事を眺めるかのように
やがて彼は文机の上の黒電話を静かに取った
『はいもしもし』
電話の向こうから聞こえてくるのは疲労と焦燥に満ちた男の声
警視総監・倉田 正孝だった
「日向です」
『っ!日向様!』
倉田の声が一瞬で緊張に強張る
「警視庁が大変なことになっているようですね」
観世の声はどこまでも穏やかだった
『あはい!現在正体不明のテロ事件が発生しまして……!』
「今関東誠勇会の本部がCTの襲撃を受けています」
観世は倉田の言葉を遮った
「おそらくこのまま関東誠勇会とCTは全面戦争になるでしょう」
『な……!なんて日だ……!』
倉田の悲鳴のような声が聞こえる
「倉田総監。例の二つのGPS。その周辺に警察を行かせないようにという指示は守られていますね?」
『あはい!もちろんです!』
「結構。それと追加でお願いがある」
観世は静かに告げた
「関東誠勇会とCTの全面戦争を止めないでください」
『えっ!?いやしかしそれは都民の安全が……!』
「警察は警視庁のテロ事件の鎮圧と捜査に全力を尽くす」
観世の声は有無を言わせない
「そして奴らの戦争が落ち着くまで一切動かないでください」
「いいね?」
『あ……はい……。承知いたしました……』
倉田は力なくそう答えるのが精一杯だった
「では。またこちらから連絡します」
観世は静かに受話器を置いた
モニターの中では東京の二つの場所で激しい炎が燃え上がっている
彼はその地獄の光景をただ静かに眺めていた
まるで美しい絵画でも鑑賞するかのように