八咫烏ファイル


【地下下水道】
やがて二人は突き当たりに着いた
滝沢に教えられた脱出ルートの終点だ
小里が錆びついた鉄のハシゴを見上げる
「上はマンホールですね」
「俺が開けてきます」
「はい」
璃夏が頷く
小里は音を立てないよう慎重にハシゴを登る
そしてマンホールの蓋を数ミリだけずらし外の様子をうかがった
……人の気配はない
彼は静かに蓋を押し上げて地上に出た
「璃夏さん大丈夫です。登って来てください」
その声を聞き璃夏もハシゴを登り外に出る
そこは見知らぬ路地裏だった
遠くでサイレンの音が響いている
「まだ組の事務所からそう離れていません」
小里が鋭い目で周囲を警戒しながら言った
「とりあえず安全な場所を探しましょう」
「小里さん」
璃夏が不安そうな声で尋ねる
「滝沢さんがどこに行ったか思い当たるところはありませんか?」
小里は少し考えて首を横に振った
「んー……。正直全く」
「あの電話は一体何だったんでしょうね?」
「そうですね。あの電話の後から滝沢さんの様子がおかしかったです」
考え込む二人
「滝沢さんの足取りを知ってそうな方はいませんか?」
小里が尋ねた
「滝沢さんの知り合いは……」
璃夏は思い出す
「夜さんと健太さんくらいしか……」
「誰ですかそれは?」
「小里さんは知らないんですか?探偵の二人です」
「あぁ……。俺は滝沢さんの世話役なだけで彼の交友関係は全く」
「こんな時間に事務所は開いていないでしょうけど……」
璃夏は決意した
「夜さんに連絡してみます。もしかしたらしまらくかくまってくれるかもしれません」
彼女はスマホを取り出し夜に電話をかけた
しかし
呼び出し音が虚しく響くだけで誰も出ない
「……出ませんね」
「健太さんの方に連絡してみます」
璃夏は次に健太の番号を呼び出した
数回のコールの後
『はいもしもし!』
健太の元気な声が聞こえた
「あ健太さん!璃夏です。椎名璃夏です」
『璃夏さん!お久しぶりです』
「お久しぶりです」
『あの時はお世話になりました。それでこんな時間にどうしたんですか?』
「それが……ちょっと訳あって。どこか安全な場所にかくまって欲しくて……」
『璃夏さん一人ですか?』
「いえもう一人一緒なんです」
『分かりました。じゃあ俺の部屋は狭いんで事務所まで来れますか?』
『夜さんには俺から連絡しておきますんで』
「それが……夜さん電話に出なくて……」
『えそうなんですか……。じゃあ俺も今から事務所に行きます』
「分かりました。本当にありがとうございます」
電話を切り璃夏が小里に伝える
「かくまってくれるみたいです」
「場所はどこですか?」
「あ……」
璃夏は財布から一枚の名刺を取り出した
夜探偵事務所の名刺だ
「ここですね」
小里がその名刺を受け取る
「……新宿か。よしタクシーで行きましょう」
二人は表通りへ出た
そして一台のタクシーを止めると夜探偵事務所へと向かう
まだ終わらない長い夜
その先にわずかな希望の光が見えた気がした