【関東誠勇会本部】
「敵襲だぁっ!」
事務所の入り口にいた見張り役の悲鳴。
それが開戦の合図だった。
事務所の奥にいた数人の幹部たちが即座に反応する。
テーブルを蹴り倒し壁に隠されたガンロッカーからそれぞれが銃を手に取った。
「撃てぇっ!中に入れるな!」
小里が叫ぶ。
CTの構成員たちはその狭い入り口が仇となった。
ほぼ一列でしか侵入できない。
そこは格好の射線だった。
関東誠勇会のこのビルはそもそもが「要塞」なのだ。
いつか来るであろうこういう襲撃に備え入り口も通路もあえて狭く作られている。
多人数での突撃を、不可能にするための設計。
入り口に殺到するCTの兵隊たち。
それを迎え撃つ関東誠勇会の歴戦の幹部たち。
狭い空間で銃弾が飛び交い怒号と悲鳴が渦を巻く。
CTの先頭部隊は次々と射殺され入り口に死体の山を築いていった。
その壮絶なゴタゴタをすり抜けるようにして。
小里は一人戦線から離脱した。
彼の本当の「仕事」はここではない。
彼は地下へと続く隠し階段を駆け下りる。
そして滝沢のアジトの分厚い鉄の扉をドンドンドンと力任せに叩いた。
「俺です!小里です!」
ガチャリと鍵が開く。
璃夏が青ざめた顔で彼を迎え入れた。
小里はすぐに内側から鍵を何重にもかける。
璃夏は恐怖で体が小刻みに震えていた。
「大丈夫です璃夏さん」
小里が力強く言う。
「行きましょう!」
「ははい!」
璃夏は頷くと部屋の隅に置いてあったアタッシュケースのような鞄を手に取った。
それはリュックのように背負うこともできる特殊な鞄だった。
彼女はそれを手早く背負う。
小里は本棚の一冊を引き抜いた。
奥に隠されたボタンを押す。
本を元の位置に戻すと本棚が静かに横へとスライドしていく。
「璃夏さん先に」
小里は璃夏を先に通路へと促した。
そして自らも中に入ると通路側のボタンを押し本棚を元に戻した。
射撃場に着くと小里は壁に掛けてあった数丁の拳銃を手に取った。
そしてそれをベルトと腹の間に無造 '作にねじ込んでいく。
小里は大きな姿見の鏡を強く押した。
鏡が音もなく開きさらに奥へと続く暗い通路が現れる。
彼は璃夏を先に行かせ自分もその闇の中へと入った。
【地下下水道】
ひんやりとした湿った空気。
そして鼻を突く強烈な匂い。
二人は東京の地下に張り巡らされた下水道の中を歩いていた。
「……凄い匂い」
璃夏がそう言ってふわりと微笑んだ。
それは恐怖からの解放の笑みだった。
地上の硝煙の匂いよりこの淀んだドブの匂いの方がずっとマシだ。
「さぁ行きましょう」
小里が頷いた。
二人は滝沢に教えられた脱出ルートを辿り下水道のさらに奥深くへと進んでいく。
地上ではまだ銃声が鳴り響いている。
だがその音ももう彼らには聞こえなかった。



