【ロイヤル街道・地下会議室】
重い沈黙を破り日向 観世が静かに告げた
「今回滝沢君と山本君にやってもらいたいのは二つ」
「CT幹部及びボスの殲滅」
「そしてもう一つはビル内部に存在するであろう違法薬物工場の完全な爆破だ」
観世は続ける
「幹部殲滅後君たちの安全が確保され次第CTの残党は警察を一斉に送り込み検挙する」
「金虎開発ビル。あのビルの何処かに薬物工場があると我々は見ている」
「もしくはその近隣施設にな」
「しかし」
滝沢が初めて口を開いた
「敵の数はとんでもないんじゃねぇのか?」
「今から向かえば深夜だ」
「上手くいけばビルはほぼ無人。もしくは少数の警備員だけのはずだ」
「なるほどね」
夜が静かに頷いた
観世は部屋の隅に置かれていた二つのアタッシュケースをテーブルの上に置いた
「特殊戦闘服だ」
観世がケースを開ける
「素材はダイニーマ繊維。鉄の15倍の強度を持つ世界で最も軽い繊維だ」
「そしてその繊維にレオロジー流体という特殊な液体を練り込んである」
「普段は柔軟だが銃弾などの強い衝撃を受けた瞬間だけダイヤモンドより硬くなる性質を持つ」
観世は二人の顔を見た
「結果としてそこらの防弾チョッキとは比較にならん防御能力を持つ。刃物もほぼ通さん」
「それとマスクがあるがそれも特殊合金製だ」
「……いいねぇ」
滝沢はその口の端を吊り上げてニヤリと笑った
「それじゃあ着替えて準備が出来たら作戦を決行してくれたまえ」
【更衣室】
着替えを終えた二人の姿は一変していた
全身を黒い特殊繊維の革のようなスーツが覆っている
滝沢の上着には左右に二つずつポケット型のホルスター
脇の下にも両方に一つずつ
ズボンの両腿にも何丁もの銃が収められていた
まさに歩く武器庫だ
夜の方も体のラインがはっきりと出る黒いボンテージ風の戦闘服に身を包んでいた
そのあまりにも官能的でしかしdeadlyなその姿
二人が部屋に戻ると観世は文机の隠し引き出しから小さな桐の箱を取り出した
そして滝沢にそれを手渡す
「滝沢君これを」
箱の中には手のひらに収まるほどの小さな黒いディスクが数個収められていた
「C4爆弾の数倍の威力を持つ特殊な小型爆弾だ。薬物工場で使いたまえ」
滝沢はそのディスクの一つを手に取るとプロの目で値踏みするように眺めた
「……助かる」
そしてそれを戦闘服の内ポケットへと収める
観世はそんな二人に一本の車のキーを手渡した
「この車を使ってください」
「帝国ホテルの地下駐車場に置いてあります」
「入り口は開けてあります」
【ロイヤル街道】
滝沢と夜は再びあの静まり返った秘密の通路を歩いていた
「なかなか動きやすいねこれ」
夜が自分の体を確かめるように言った
「少し重いがな」
「お前は銃を入れすぎなんだよ」
夜が笑う
「どれだけ敵がいるか分からんからな」
滝沢は真顔で答えた
やがて二人は帝国ホテルの地下駐車場へとたどり着く
そこに一台だけ黒いスーパーカーが停まっていた
二人はそれに乗り込む
エンジンが低い唸り声を上げて車は地上へと走り出した
目指すは横浜金虎開発ビル
その道中
一台の車が反対車線から猛スピードで走り抜けていった
関東誠勇会の本部へと向かうCTの襲撃部隊の車だった
二つの運命が今、夜の高速道路で静かにすれ違った



