【関東誠勇会地下、滝沢のアジト】
ドンドンドン!
鉄の扉が壊れるほど乱暴に叩かれた。
「滝沢さん!」
子分である小里の切羽詰まった声。
璃夏が慌てて扉を開けると小里が血相を変えて中に転がり込んできた。
「どうした?」
滝沢はソファに深く腰掛けたまま顔だけを小里に向けた。その声はあまりにも冷静だった。
「うちの……うちの直系の浜崎組がCTの奴らに襲撃されて……!」
小里は肩で荒い息をしながら報告する。
「事務所にいたほとんどの人間が……。かなりの死傷者が出たみたいです」
「……座れ」
滝沢は向かいのソファを顎で指し示した。
小里はそれに従う。
隣で話を聞いていた璃夏は驚きのあまり両手で口を固く塞いでいた。
「親父は……坂上組長はこちらから動けば公安が動くから動けないと……」
小里は苦しそうに言葉を続ける。
「ですが組の連中はもうやる気満々で……俺なんかが止めきれるかどうか……」
「なるほどな」
滝沢は静かに呟いた。
「トカゲの尻尾切りか」
「……ですね」
小里が力なく頷く。
「日本のヤクザとは違う。奴らは頭が殺られても次から次へと代わりが湧いて出てくるだけだ」
「こうなると逆に俺の出る幕じゃねぇ」
滝沢はまるで他人事のように言った。
「ですよね……」
小里が頭を抱える。
「じゃあどうしたら……」
その時だった。
ジリリリリと。
滝沢の私用のスマートフォンがテーブルの上で鳴り響いた。
着信画面に表示されたその「番号」を見て滝沢の目が初めて大きく見開かれた。
「おい!お前ら!」
滝沢が吠える。
「今すぐここから出ろ!」
「早くしろ!」
その今まで聞いたこともない有無を言わさぬ鋭い声。
璃夏と小里は何が起きたのか分からないまま慌ててアジトから飛び出した。
鉄の扉が閉まる。
滝沢は一呼吸置くとその電話に出た。
電話の向こうから聞こえてくるのは静かでしかし絶対的な権威を宿した男の声。
日向 観世だった。
『―――八咫烏結集だ』
「……いつだ?」
滝沢は短く問い返した。
『明日0時。迎えの車をそちらにやる』
「分かった」
滝沢はそれだけ言うと通話を切った。
そして目を閉じ深く息を吐く。
本当の「仕事」が始まった。