雨宿りの記憶

 数日後、放課後の教室。
 和成は教科書を閉じ、深く息を吐いた。最近の自分は、心羽のことばかり考えている。彼女の不器用さや言葉足らずなところも、全部含めて目が離せない。
 一方、心羽は窓際でぼんやり外を見ていた。空は晴れていたが、心はまだ揺れている。
(和成くんに……ちゃんと、言わなきゃ)
 でも、どう言えばいいのかわからない。
 そんな時、和成が近づいてきた。
「帰り、時間ある?」
 突然の誘いに心羽は目を丸くした。
「……あるけど」
「じゃあ、商店街のあの場所、行こう」
 彼の笑顔に、心羽はうなずくしかなかった。
 二人で歩く道すがら、心羽は何度も深呼吸した。胸の奥がざわざわして落ち着かない。
 商店街に着くと、あの日と同じように空は薄曇りになっていた。
「……また降るかな」
「いや、今日は大丈夫だろ」
 和成は笑いながら言ったが、彼の表情もどこか緊張しているように見えた。
 立ち止まった和成は、ゆっくりと深呼吸して言った。
「この前さ……『嫌わない』って言ったの、覚えてる?」
「……うん」
「俺、本気だから。だから……もっと心羽のこと、知りたい」
 心羽の目に涙がにじむ。

「私、ずっと……話すと嫌われると思ってた。でも、和成くんは違った」
 声が震えていた。
「だから……ありがとう」
 涙が頬を伝い、落ちる。
 和成は一歩近づき、そっと心羽の手を取った。
「もう一回言う。俺は君を嫌わない」
 その言葉に、心羽は堪えきれず泣き出した。
 少し離れたところで、幸輝が二人の様子を見ていた。
「……まあ、これでいいか」
 ぽつりとつぶやき、踵を返す。その顔にはいつもの不器用な笑みが浮かんでいた。
 はるかもまた、遠くから二人を見ていた。
「……私、何やってたんだろ」
 スマホをぎゅっと握りしめる。けれど、その瞳はどこか晴れやかだった。
 空を見上げると、雲が切れ、光が差し込んでいた。
 雨の日に始まったすれ違いは、ようやく終わりを迎えたのだ。
 帰り道、心羽と和成は並んで歩いていた。
「これからさ……いっぱい話そう」
「……うん」
 その答えは、小さくても確かだった。
【終】