正博と幸枝は都電と列⾞を乗り継ぎ、 夜半⼿前に横須賀にある⻑津家の本邸に到着した。 本邸は別邸の洋館と似た荘厳な空気を放つ⽇本家屋である。正博に案内されて⼊ったのはこの本邸の隣の敷地にある⼩さな家であった。 ⼩さな居間に⽕を灯した蝋燭を置くと、ほんのりとした灯りが暗闇を暖かく照らした。
「ひとまず、何か⾷べるか。⼿元の⾷糧は別荘から持ってきたビスケットしか無いが」
正博が鞄から取り出したビスケットは⼗⼆枚で、明⽇の朝⾷にと六枚を残して⼆⼈で三枚ずつ⾷べた。
「すまないな、 碌なものも⾷べさせてやれないし、 ⾵呂は本宅のほうにあるから使わせてやれない」
幸枝はふるふると⾸を横に振った。
「いいえ、いいんです……私も本当は⽇本橋の実家に帰るつもりが、 帰るところが無くなってしまったものですから。こんなにしっかりとしたお家にお邪魔できるとは……それに、⻑津さんが⼀緒に居てくださるので……安⼼できますね」
頬を⾚らめて俯きがちにそう話す幸枝を⾒た正博は、ぱっと⽬線を逸らした。
「そう⾔ってくれるのは有難いな」
そっけない表情で放つ⾔葉の端に、 僅かに喜びが浮かんでいる。⼆⼈は蝋燭を置いた卓袱台に向かい合って座っているが、どちらも何も喋らずに蝋燭の⽕を眺めるばかりである。
「寝るか、そろそろ」
正博がぽつりと呟く。視線は蝋燭の上で揺らめく⼩さな炎に向いている。
「ええ、明⽇もお⽗さま達を探しに⾏きたいですし……」
幸枝がそう⾔うと、正博はぱっと⽴ち上がって隣の部屋に向かった。
「ひとまず、何か⾷べるか。⼿元の⾷糧は別荘から持ってきたビスケットしか無いが」
正博が鞄から取り出したビスケットは⼗⼆枚で、明⽇の朝⾷にと六枚を残して⼆⼈で三枚ずつ⾷べた。
「すまないな、 碌なものも⾷べさせてやれないし、 ⾵呂は本宅のほうにあるから使わせてやれない」
幸枝はふるふると⾸を横に振った。
「いいえ、いいんです……私も本当は⽇本橋の実家に帰るつもりが、 帰るところが無くなってしまったものですから。こんなにしっかりとしたお家にお邪魔できるとは……それに、⻑津さんが⼀緒に居てくださるので……安⼼できますね」
頬を⾚らめて俯きがちにそう話す幸枝を⾒た正博は、ぱっと⽬線を逸らした。
「そう⾔ってくれるのは有難いな」
そっけない表情で放つ⾔葉の端に、 僅かに喜びが浮かんでいる。⼆⼈は蝋燭を置いた卓袱台に向かい合って座っているが、どちらも何も喋らずに蝋燭の⽕を眺めるばかりである。
「寝るか、そろそろ」
正博がぽつりと呟く。視線は蝋燭の上で揺らめく⼩さな炎に向いている。
「ええ、明⽇もお⽗さま達を探しに⾏きたいですし……」
幸枝がそう⾔うと、正博はぱっと⽴ち上がって隣の部屋に向かった。



