今、 私、 倒れている──。幸枝は頭では薄らと状況を理解しようとしていたが、 急に⼒の抜けた⾝体を元に戻すことは出来ず、重⼒に逆らうことも当然叶わないことまでは⾒当が付いた。このまま倒れてしまうのかとぼんやりと思っていた⽮先、視界全体に広がる⽕炎に似た⼣空を遮るように⼈影が⼊ってきた。
「しっかりしろ」
幸枝は倒れる直前、 正博に⽀えられたので怪我を免れたようである。 仰向けのまま背と腰を⽀えられるような体勢で⽌まった幸枝の虚 な視線と鋭い正博の視線がぶつかる。もう武器を⼿に戦うことは無い筈の正博であるが、その動きも⾔葉も表情も、 いまだ海軍⼠官宛らであった。正博のすらりとしていながらも剛健な躯体に抱えられる感覚は、幸枝にとっては懐かしいものに感じられた。正博に⽀えられて⽴ち直した幸枝は、
「以前、⻑津さんにこうして倒れかけた私を⽀えていただいたときは、まだこの街も綺麗でしたね」
と暗い表情を⾒せた。
「そんなこと⾔うなよ、幸枝さん」
正博の表情もどこか曇っている。彼⾃⾝の気落ちのためか、 ⽇が落ち始めた所為か、その顔には翳りが浮き上がっていた。
「⽇が落ちたら動き回るのは危険だ。 今⽇の所は帰ろう、⼀晩くらいであれば君に居場所を提供できそうだ。横須賀の⽅になるが、君がそれで良ければ」
幸枝の⽬は潤んでいるように⾒えた。
「……⻑津さんは御帰りになられてください。 私はまだお⽗さま達を探します、 ⽇本橋の家は無くなっていたけれど本所に居る筈だわ……」
「しっかりしろ」
幸枝は倒れる直前、 正博に⽀えられたので怪我を免れたようである。 仰向けのまま背と腰を⽀えられるような体勢で⽌まった幸枝の虚 な視線と鋭い正博の視線がぶつかる。もう武器を⼿に戦うことは無い筈の正博であるが、その動きも⾔葉も表情も、 いまだ海軍⼠官宛らであった。正博のすらりとしていながらも剛健な躯体に抱えられる感覚は、幸枝にとっては懐かしいものに感じられた。正博に⽀えられて⽴ち直した幸枝は、
「以前、⻑津さんにこうして倒れかけた私を⽀えていただいたときは、まだこの街も綺麗でしたね」
と暗い表情を⾒せた。
「そんなこと⾔うなよ、幸枝さん」
正博の表情もどこか曇っている。彼⾃⾝の気落ちのためか、 ⽇が落ち始めた所為か、その顔には翳りが浮き上がっていた。
「⽇が落ちたら動き回るのは危険だ。 今⽇の所は帰ろう、⼀晩くらいであれば君に居場所を提供できそうだ。横須賀の⽅になるが、君がそれで良ければ」
幸枝の⽬は潤んでいるように⾒えた。
「……⻑津さんは御帰りになられてください。 私はまだお⽗さま達を探します、 ⽇本橋の家は無くなっていたけれど本所に居る筈だわ……」



