⼆⼈は再び超満員の都電とバスに揺られて向島を⽬指す。 橋を渡った先は、 新宿や⽇本橋よりも深刻なように⾒えた。向島に降り⽴った幸枝は早速本社を⽬指して歩く。毎⽇歩いていたこの道のりは⾝体に染み付いているようで、周辺の景⾊が変わろうとも勝⼿に⾜が進む。 遠くの⽅にポツンと建っている薄汚れた三階建のビルが⾒えたと同時に、幸枝の⾜はピタリと⽌まった。
──まさか、あれが本社?
傾き始めた太陽に照らされた燃えるような橙⾊の空を駆ける光線に包まれたその廃墟は、まるで業⽕に包まれているかのように⾒えた。煤に塗れたかつての本社に誘われるように、幸枝の⾜は早⾜から駆け⾜に変わる。
「おい、幸枝さ──」
⾃らを呼び⽌める声も他所に、幸枝は先へ、 先へと駆けていく。辿り着いた所は、やはり伊坂⼯業の本社であった。ただ、外側は⿊く焦げ、中も⾒る限りでは⼈の気すら感じられない。お⽗さまとお兄さまは⼀体何処へ?他の従業員は?⼯場と⼯員は?……幸枝の頭の中で、恐ろしい疑問が駆け巡った。しかしその恐ろしい疑問について考える以前に、今や廃墟となったかつての本社を⾒上げるのが精⼀杯で、いよいよ⼿⾜が震え始めた。どうにかしなければと思った頃には⼿遅れで、気がついた頃にはすでに⾜が竦み、 橙⾊の空が眼中⼀杯に⾶び込んでくる。
──まさか、あれが本社?
傾き始めた太陽に照らされた燃えるような橙⾊の空を駆ける光線に包まれたその廃墟は、まるで業⽕に包まれているかのように⾒えた。煤に塗れたかつての本社に誘われるように、幸枝の⾜は早⾜から駆け⾜に変わる。
「おい、幸枝さ──」
⾃らを呼び⽌める声も他所に、幸枝は先へ、 先へと駆けていく。辿り着いた所は、やはり伊坂⼯業の本社であった。ただ、外側は⿊く焦げ、中も⾒る限りでは⼈の気すら感じられない。お⽗さまとお兄さまは⼀体何処へ?他の従業員は?⼯場と⼯員は?……幸枝の頭の中で、恐ろしい疑問が駆け巡った。しかしその恐ろしい疑問について考える以前に、今や廃墟となったかつての本社を⾒上げるのが精⼀杯で、いよいよ⼿⾜が震え始めた。どうにかしなければと思った頃には⼿遅れで、気がついた頃にはすでに⾜が竦み、 橙⾊の空が眼中⼀杯に⾶び込んでくる。



