⿊い断髪の裾が左右に揺れる。
「……ご家族を探さなければならないのは、⻑津さんも同じではありませんか。⻑津さんだって、 戦争が終る直前に甲州へ来て下すったのを考えると、 御家族のもとへも⾏かず甲州へいらっしゃったのでしょう?⻑津さんこそ御家族のもとへ⾏かなければなりません、私は⼀⼈で⾏きますからお構いなく……」
正博は⾷い縛り、強く握った拳を振るわせている。
「俺の家族の安否は分かっている。それに、此処は君を⼀⼈で歩かせるには危険だ」
出発を強く促す正博に背く訳にもいかず、幸枝は黙って新宿を後にした。 都電にギュウ詰めにされて着いた先の⽇本橋も、 新宿と同様所々⽡礫の残る⼀⽅で、 幾つかの建物は残っている。 橋も変わらず架かっている。幸枝は住み慣れた場所の変わりように苦い顔をしながら歩いているが、その⾜取りは存外しっかりとしている。 暫く、邸宅があったと思われる⽅⾓を⽬指して歩いた⼆⼈はあちこち迷いながらも伊坂家の⼟地の前に着いたのだが、⽞関前には⼩銃を抱えた兵⼠が⼆⼈⽴っていた。
「まあ、これは……」
幸枝は肩を落とした。 ⽗からの⼿紙で、離れが空襲で焼け、それを⽗と兄が修復したという話までは知っていた。 原型はないものの建物らしき形をした別邸が塀の隙間から⾒える。 本邸も変わらず⽴派な佇まいであったが、建物も⼟地も諸共接収されてしまったらしい。
「本社のほうに、⾏ってみるかい」
愕然とする幸枝の肩を撫でた正博は、気落ちした彼⼥を慰めるように優しく話しかける。
「……ええ、⾏きましょう」
「……ご家族を探さなければならないのは、⻑津さんも同じではありませんか。⻑津さんだって、 戦争が終る直前に甲州へ来て下すったのを考えると、 御家族のもとへも⾏かず甲州へいらっしゃったのでしょう?⻑津さんこそ御家族のもとへ⾏かなければなりません、私は⼀⼈で⾏きますからお構いなく……」
正博は⾷い縛り、強く握った拳を振るわせている。
「俺の家族の安否は分かっている。それに、此処は君を⼀⼈で歩かせるには危険だ」
出発を強く促す正博に背く訳にもいかず、幸枝は黙って新宿を後にした。 都電にギュウ詰めにされて着いた先の⽇本橋も、 新宿と同様所々⽡礫の残る⼀⽅で、 幾つかの建物は残っている。 橋も変わらず架かっている。幸枝は住み慣れた場所の変わりように苦い顔をしながら歩いているが、その⾜取りは存外しっかりとしている。 暫く、邸宅があったと思われる⽅⾓を⽬指して歩いた⼆⼈はあちこち迷いながらも伊坂家の⼟地の前に着いたのだが、⽞関前には⼩銃を抱えた兵⼠が⼆⼈⽴っていた。
「まあ、これは……」
幸枝は肩を落とした。 ⽗からの⼿紙で、離れが空襲で焼け、それを⽗と兄が修復したという話までは知っていた。 原型はないものの建物らしき形をした別邸が塀の隙間から⾒える。 本邸も変わらず⽴派な佇まいであったが、建物も⼟地も諸共接収されてしまったらしい。
「本社のほうに、⾏ってみるかい」
愕然とする幸枝の肩を撫でた正博は、気落ちした彼⼥を慰めるように優しく話しかける。
「……ええ、⾏きましょう」



