「⻑津さん、ずるいですよ……⻑津さんばかり私への気持を話していて……私、⻑津さんがそこまで様々なことを考えているとはつゆ知らず……それでも、⻑津さんは私がこれまでにお会いしてきた⽅々の中で最も私のことを知ろうとしてくださり、⼼配してくださり、そして誠実なかたです。わざわざ⾔うまでもないかもしれませんが、 私は伊坂⼯業の令嬢として(うま)れ育ち、 ⼥学校を出てからは社交界に⼊りながら社⻑夫⼈代理としての⽴場も果たしてきましたから、毎⽉のようにお⾒合いの申込や縁談が様々なところから上がりましたし、私の知らぬところで様々な噂が上がっていたようでした。私は正直なところ、『伊坂幸枝』ではなく『伊坂の娘』として⾒られるのにうんざりしていました。私に近づいてくる⼈は皆私ではなく私の居る会社を⾒ていましたし、私を求めているのではなく資本を求めていました。そんなところで⻑津さんとお会いして……⻑津さんはあのお仕事の初めから、私を『伊坂幸枝』として⾒てくださいましたね。あの時にはもう……」
正博の⽬を覗き⾒るような⼤きな⿊⽬がきらきらと輝いている。
「⻑津さんは私のことを 『友⼈』 と⾔ってくださいました。あの時私は長津さんのことを友⼈だと思うのは(はばか)ると思っていたのですが、今ならはっきりと『お友達』だと⾔えます」
⼀瞬⾒開かれた切⻑の眼には恥じらいを⾒せる⼥の表情が映る。
「幸枝さん……」