あの時も彼が居なければ⾬に打たれて野垂(のた)れ死んでいたかもしれない。あの時誰かが助けてくれたこと、しかもそれが正博であったことに妙な安⼼感を覚えた。 憲兵に打たれたときも、 熱痙攣(ねつけいれん)を起こした時も、いつも⼼配しながらも⼿当や看病をしてくれるような献⾝的な⼀⾯もある。⼀時は共に仕事を続けられなくなる危機もあったが、 結局⾃らが引責しようと申し出た時の潔さ、男らしさは少なくとも同じ世界の⼈たちと関わっていても⾒られないだろう。
「……でも、 何故早くそれを説明してくださらなかったのですか?⻑津さん、 今思い返してみると、 私は⻑津さんに幾度となく助けていただき、 守っていただき、 本当によくしていただいています……私の周囲には貴⽅のように素敵なかたは他には知りません。それでも、⻑津さんは何時(いつ)飄々(ひょうひょう)とされていて、 私と⼀緒に居ても顔⾊ひとつ変えないでしょう、ずっと私は関⼼すら持たれていないと、本当にお仕事だけの関係で割り切られているのだと感じていました。それなのに、何故今になって……」
「すまない、幸枝さん」
幸枝の落胆した顔を覗き込んだ正博は続ける。