石楠花の恋路

幸枝の細い肩を⽚腕に抱いた正博は、向かい側の客室の中から適当な部屋を選んで幸枝とともに⼊った。 ぱっと電灯に照らされた部屋の中には、 ⼤きなソファーに⼩机、ベッドがある。正博に促されてソファーに掛けた幸枝は続ける。
「私の⻑年の疑問です……お仕事でご⼀緒させていただいていた時から、⻑津さんは誰よりも私のことを丁寧に扱ってくださいました。気が付けばお仕事のことだけでなく、 普段の⽣活でも思わぬところで何度も助けていただきました……遂には疎開先までご案内して下すったのに今度はお迎えにまで来ていただいて……どうしてそんなに私に良くしてくださるのです?⻑津さんはきっと優しい御⽅なのでしょう、それでも、⾝を(てい)してまで良くしてくださるのは何故でしょうか……というのがその……疑問なのです」
「そうだなあ」
正博は天井を仰ぎながら呟いた。こうして⼆⼈が同じソファーに座って話すのは、 海経の応接室以来である。
「単⼑直⼊に⾔えば、君への好意だ」
「ですから、その御厚意についてお伺いしているのです」
廊下からの涼しげな⾵が開け放した扉を伝い部屋の中を駆け巡る。
「……幸枝さん、俺は幸枝さんのことがずっと好きだった。いや、今でも好きだ」
幸枝は困惑した視線を男に向ける。