正博が甲州に来てから三⽇ほど経ったが、幸枝にとっては同じ屋根の下に正博が居ることに未だ違和感を覚えていた。彼は幸枝が過ごしている客室の斜め向かいの部屋に居るらしい。あれからというもの、 毎⽇の⾷卓は正博と幸枝が向き合って座っているのであの空っぽの寂しさは感じなくなったのだが、 黙々と⾷事を摂る彼を前にしていると、どこか緊張してしまうような気がするのである。そしてやはり気になるのは、 東京に戻ったらきっとやって来る彼との別れであった。まさか正博が甲州にまで来ようとは思わなかったので現状に驚いていることも確かなのだが、これで東京に戻ってから別れてしまうのが不安でならない。しかし、 正博のほうがきっともっと不安だと幸枝は考えていた。⼀家全員が海軍だというこの家は、 今後どうなるのだろうか。その渦中に居る正博こそが⼤きな不安を抱えているのではないかとも思う。
ある晩、 正博から話があると告げられた幸枝は、 仕事終わりの⾨番とともに居間へ出向いた。ほんの少し寒さの出てきた晩、幸枝はネグリジェの上から⼀枚⽻織ってソファーに座っている。⼩野⽊は⽇誌を書きながら話を聞くらしく、膝の上に⽇誌と鉛筆を置いている。
「さて、幸枝さんの帰京の件についてだが」
部屋には⼩野⽊が⽇誌を書く鉛筆の⾛る⾳だけが響いている。
「今週末でどうかな、幸枝さんは⽀度は間に合うかい」
幸枝は固唾を飲み、ひとつ頷いた。あまりにも突然のことだが、 遅かれ早かれその⽇は来るのである。
ある晩、 正博から話があると告げられた幸枝は、 仕事終わりの⾨番とともに居間へ出向いた。ほんの少し寒さの出てきた晩、幸枝はネグリジェの上から⼀枚⽻織ってソファーに座っている。⼩野⽊は⽇誌を書きながら話を聞くらしく、膝の上に⽇誌と鉛筆を置いている。
「さて、幸枝さんの帰京の件についてだが」
部屋には⼩野⽊が⽇誌を書く鉛筆の⾛る⾳だけが響いている。
「今週末でどうかな、幸枝さんは⽀度は間に合うかい」
幸枝は固唾を飲み、ひとつ頷いた。あまりにも突然のことだが、 遅かれ早かれその⽇は来るのである。



