ぐったりとソファーに掛けた正博は、顔だけを同じく掛けた幸枝に向ける。
「ああ、 陸軍の件は知っていた。 執り仕切っていたのは君のお兄さんだろう、 我々はそれを承知の上で参⼊したからな……しかし君の⾔う通り、誰も罪ではないのだろうな。 戦争というものは、 何をしても勝者が正義になる。 連合国が勝ったので連合国が正義になったに過ぎない。 裏を返せば枢軸国が勝ったのであれば枢軸国が正義になった、まあ、 今更何を⾔ったとしても負け⽝の遠吠えだろうがな」
正博はソファーに座り直し姿勢を正した。
「幸枝さん、君が東京を離れる⽇、駅に⾏く途中で話したことを覚えているかい」
「はあ」
そう⾔われて、幸枝はあの⽇のことを思い返した。
⼥中に⾒送られて駅へ⾏く途中の⾞内。⾃らハンドルを切る海軍⼠官の姿を助⼿席から横⽬に⾒ていた。最後になるかもしれないからと⻑い間抱えていた疑問を訊ねようとしながら、やはり聞きそびれてしまったことだけはよく覚えている。その代わりに尋ねたのは、 正博の希望についてであった。確か答は、 戦争が終るまで軍⼈としての役⽬を果たすこと、重みのあるものであったと記憶している。
「俺は君を此処に送ってから、よく君との出来事を思い出して過ごしていた。そして、 君が送り返してくれた⼿紙も何度も、 何度も読み返した。 君からの⼿紙を読んでいると、まるで直ぐ側で君が語りかけてくれているかのようで、その間だけは、それまでと同じく戦況からも重圧からも逃れて真に⼼を落ち着けることが出来た。いつも君は俺に希望を持たせてくれた。 君が⽣きていてくれたから、 俺は海軍軍⼈としての役⽬を完遂することが出来たと思っているし、君が唯⼀の⼼の⽀えだった」
「ああ、 陸軍の件は知っていた。 執り仕切っていたのは君のお兄さんだろう、 我々はそれを承知の上で参⼊したからな……しかし君の⾔う通り、誰も罪ではないのだろうな。 戦争というものは、 何をしても勝者が正義になる。 連合国が勝ったので連合国が正義になったに過ぎない。 裏を返せば枢軸国が勝ったのであれば枢軸国が正義になった、まあ、 今更何を⾔ったとしても負け⽝の遠吠えだろうがな」
正博はソファーに座り直し姿勢を正した。
「幸枝さん、君が東京を離れる⽇、駅に⾏く途中で話したことを覚えているかい」
「はあ」
そう⾔われて、幸枝はあの⽇のことを思い返した。
⼥中に⾒送られて駅へ⾏く途中の⾞内。⾃らハンドルを切る海軍⼠官の姿を助⼿席から横⽬に⾒ていた。最後になるかもしれないからと⻑い間抱えていた疑問を訊ねようとしながら、やはり聞きそびれてしまったことだけはよく覚えている。その代わりに尋ねたのは、 正博の希望についてであった。確か答は、 戦争が終るまで軍⼈としての役⽬を果たすこと、重みのあるものであったと記憶している。
「俺は君を此処に送ってから、よく君との出来事を思い出して過ごしていた。そして、 君が送り返してくれた⼿紙も何度も、 何度も読み返した。 君からの⼿紙を読んでいると、まるで直ぐ側で君が語りかけてくれているかのようで、その間だけは、それまでと同じく戦況からも重圧からも逃れて真に⼼を落ち着けることが出来た。いつも君は俺に希望を持たせてくれた。 君が⽣きていてくれたから、 俺は海軍軍⼈としての役⽬を完遂することが出来たと思っているし、君が唯⼀の⼼の⽀えだった」



