それは、不本意ながら愛する⼥性(ひと)を僻地に送ったことに対する謝罪であると同時に、⾃⾝が本⼟の外に赴いたことで連絡が取れなくなったことに対するものであるし、ひいては海軍⼠官としての⼀⾔なのかもしれない。幸枝は全てを解ったつもりでほんの少し⾸を傾け、正博の⽬を⾒てゆっくりと告げた。
「⻑津さんは何も悪くありません……いや、誰も悪くなんかないんです。それに……私も多くの知⼈を亡くしました、 ⽗も、 兄や弟も、 空襲で家を焼かれました。あの後も東京では空襲があった筈ですが、その後どうなったのかは私も知りません。それでも……それでも、⽇々前を⾒て⽣きることに集中し、⻑津さんが⽤意して下すったこの安住の地で暮らしておりました。⻑津さんがいらっしゃらなければ、 私は今頃どうなっていたか……考えただけでも恐ろしいのです。でも、 私には⻑津さんがいらっしゃって、⼩野⽊さんや使⽤⼈⻑さんをはじめとしたこの御屋敷の⽅々にも⼤変良くしていただいて……⻑津さんのおかげで、今こうしていられるのです。ですから、謝らないでください」
「しかし……」
正博の⽬に映る幸枝は、 遥か遠くの空から舞い降りた天使のように麗らかであった。 穏やかでありながら眩しいその顔を⾒ていては、否定の⾔葉も上⼿く出せない。幸枝は重ねて続ける。
「もし仮に⻑津さんが罪だと仰るのならば、 私も罪です。 何せ私たち伊坂⼯業は敵を殺すための武器を次々に造っていたのですから……これは決して海軍のかたが弊社にお仕事を持って来て下すったからなどというものではなく……このような状況になったからこそ申し上げられることですが、私たち伊坂⼯業は海軍とお取引をする以前から陸軍ともお取引をしておりました。前々からそのようなことをしていたのです」