幸枝が悶々としているうちに、「その⽇」がやってきた。
⼋⽉⼗五⽇の正午を⼿前にして、 屋敷の留守居、⾨番、 使⽤⼈そして幸枝は居間に集まり、ラジオを⾒つめている。
この戦いの終わりを告げる詔勅がこの国に⼀⻫に発せられた。 屋敷の居間では、誰もが俯き、黙りこくっている。 ガラス窓から陽の光が差し込むのだけは変わらず、ただ静かに時が流れていった。幸枝はやはり始めもどかしい気持であったが、 詔書の全てがこの世に公開されたときには、しゃんとした姿勢で遠くを眺めていた。
思い出したのは、 甲州に来る直前の東京でのことである。 甲州へ向う列⾞を待っていたとき、彼⼥は線路を⾒つめながら、⾃分が東京に戻るときには戦争は終っていると⾔った。戦争は終った、もう敵機も爆弾も無い。戦争が終われば伊坂⼯業と海軍との仕事も終わりである。敗戦は敗戦国の⾮武装化を意味しているから、今後需要は⽣れない。
こうなると、幸枝に新たな恐怖が芽⽣えた。
⻑津さんは寂しげな少⼥の⼿を取り、 戦争が終ったらまた会おうと告げた。 ⻑津さんとはもう暫く⼿紙を遣り取りしていないが、そもそも彼は⽣きているのだろうか。 ⽣きているならば、 今何処に居るのだろうか──いずれにせよ、おそらく⽗からか彼からか、 東京に戻れとか甲州を出ろとか、そういった内容の⽂書が届くのだ。そしてそれを⾒た幸枝は東京へ戻る──。
戻った先、 列⾞を降りたところにはきっと⻑津さんが居て、どんな表情をしているか、どんな⾔葉を掛けるかは分からないが、そこで迎えにきた彼とさよならになってしまうのだ。ただの仕事相⼿、強いて⾔うなら知⼈あるいは友⼈だと思っている筈の彼との永久の別れが来るのかと思うとそれは⼤きな恐怖で、幸枝にとっては夜も眠れないほどであった。
⼋⽉⼗五⽇の正午を⼿前にして、 屋敷の留守居、⾨番、 使⽤⼈そして幸枝は居間に集まり、ラジオを⾒つめている。
この戦いの終わりを告げる詔勅がこの国に⼀⻫に発せられた。 屋敷の居間では、誰もが俯き、黙りこくっている。 ガラス窓から陽の光が差し込むのだけは変わらず、ただ静かに時が流れていった。幸枝はやはり始めもどかしい気持であったが、 詔書の全てがこの世に公開されたときには、しゃんとした姿勢で遠くを眺めていた。
思い出したのは、 甲州に来る直前の東京でのことである。 甲州へ向う列⾞を待っていたとき、彼⼥は線路を⾒つめながら、⾃分が東京に戻るときには戦争は終っていると⾔った。戦争は終った、もう敵機も爆弾も無い。戦争が終われば伊坂⼯業と海軍との仕事も終わりである。敗戦は敗戦国の⾮武装化を意味しているから、今後需要は⽣れない。
こうなると、幸枝に新たな恐怖が芽⽣えた。
⻑津さんは寂しげな少⼥の⼿を取り、 戦争が終ったらまた会おうと告げた。 ⻑津さんとはもう暫く⼿紙を遣り取りしていないが、そもそも彼は⽣きているのだろうか。 ⽣きているならば、 今何処に居るのだろうか──いずれにせよ、おそらく⽗からか彼からか、 東京に戻れとか甲州を出ろとか、そういった内容の⽂書が届くのだ。そしてそれを⾒た幸枝は東京へ戻る──。
戻った先、 列⾞を降りたところにはきっと⻑津さんが居て、どんな表情をしているか、どんな⾔葉を掛けるかは分からないが、そこで迎えにきた彼とさよならになってしまうのだ。ただの仕事相⼿、強いて⾔うなら知⼈あるいは友⼈だと思っている筈の彼との永久の別れが来るのかと思うとそれは⼤きな恐怖で、幸枝にとっては夜も眠れないほどであった。



