幸枝はそれからの夏の間、 何も変わらず過ごしていた。 何かあったかと⾔うならば、 ⽗からの⼿紙を待ち続けていたのであるが、 ⾳沙汰はひとつも無く、ただ、 万が⼀のことがあれば取引をしている海軍の担当者を経由して何かしらの緊急の連絡が来る筈だと踏んで待っているのみ。 ⽇に⽇に敗戦が⾊濃くなっているが、実際問題、 今はどのくらいの注⽂が⼊っているのだろうか、そんなことは東京にいないこの⾝からして知るところではない。甲州はやはり穏やかな⽇々が続いていたが、 毎⽇新聞やラジオで⾒聞きする限りでは、この国は⼤変なことになっているらしい。 東京への空襲もさることながら、この春には連合軍が沖縄にまで迫り、かわるがわる⽇本は島を失い、ついに今⽉、広島と⻑崎、 ⽴て続けに新型爆弾が落とされたのだという。 紙⾯やニュースの向う側からは対戦国を詰り、国⺠を奮い⽴たせる⾔葉がまるで鶏が卵を産むかのようにポンポンと流れてくる。幸枝はそんな⽂⾔に飽き飽きしていた。
しかし⼀⽅で、この国が戦争に負けるという事実を受け⼊れられずにいた。表向きは敗戦の可能性を理解しているのだが、あんなに仕事に齷齪して、⾶ぶように武器が売れたあの時代を振り返ると、あまりにも⾺⿅らしく、情けない気持になるのであった。ど
んな末路を辿ろうとも、どんな理由であっても、この四年間、帝都の⼈々がmそしてこの国の⼈々が、それぞれの出来ることをしながら帝国の勝利を描いていたのは揺るぎない事実であった。
しかし⼀⽅で、この国が戦争に負けるという事実を受け⼊れられずにいた。表向きは敗戦の可能性を理解しているのだが、あんなに仕事に齷齪して、⾶ぶように武器が売れたあの時代を振り返ると、あまりにも⾺⿅らしく、情けない気持になるのであった。ど
んな末路を辿ろうとも、どんな理由であっても、この四年間、帝都の⼈々がmそしてこの国の⼈々が、それぞれの出来ることをしながら帝国の勝利を描いていたのは揺るぎない事実であった。



