そういうことでこの研究所では災害や空襲がある度に別邸からの安否の連絡を受けていたのである。
「それで、どうせ今回も無事なのだろう」
「はあ、遠くから爆撃の光や⾳を⾒聞きしたようでその晩は(おび)えていらっしゃる様⼦もありましたが、今朝はすっかり。普段と同じように過ごされております」
⼤尉は鉛筆を⾛らせ、⼩野⽊の話を書き取った。
「そうか」
「では、失礼いたします」
⼩野⽊は早々に研究所を出て、⾃転⾞⽚⼿に甲州へ戻った。
甲府を抜けると⾃転⾞の切る⾵も草⽊の⾹りがして、(ようや)く家に戻ってきたという気分にさえなった。