「やあ、⼩野⽊さん。別邸の件ですか」
「ああ、平井兵曹⻑。昨晩は無事でしたか」
平井はもといた作業場を指差して答える。
「ええ、 我々は⼤事無く済みましたが。 昨夜の爆撃で市中の被害は激しく、 多くの市⺠が死にました。我が軍のこの建物も修繕中です」
「はあ、 それは⼤変だ……私も此処へ来る迄の間にその被害は⾒て取りました。まさか甲府がこんな⾵になろうとは……」
再び汗を拭った平井は、警衛に⼀つ指⽰を出した。
⼤理(おおり)上等兵曹、室⻑に甲州から知らせが来たと伝えに⾏け」
⼤理という名を持つらしい警衛は黙ってゆっくりと研究室の中へ向かう。
「貴様、ちんたらしてんじゃねえ!客⼈を待たせるな」
警衛はそそくさと駆けて⾏った。⼀⽅の平井はその背を⾒て疲れた表情を⾒せる。
「やれやれ、ウチのアレはどうも太々(ふてぶて)しい奴で、ひとつ喝を入れておかないとな……()ぐに室内の者がお迎えに上がるでしょう。では、作業に戻るので」
「はあ、どうも」
平井は再び修繕作業を⾏なっている箇所へと戻って⾏った。それから数分して警衛と研究員と思われる⼈物が出てきた。
「⻑津少将別邸のかたですね、中へどうぞ」
⼩野⽊は警衛の鋭い⽬つきを感じながらも眼鏡の研究員に付いていく。深く降った先には薄暗い廊下が続いており、その脇に数字の打たれた重々しい扉が取り付けられている。 ⼆⼈の⾜⾳は遠くの廊下の終わりから反響してきたかのようにやけに(うるさ)い。
「此⽅です」
案内された⼩部屋には室⻑たる⼤尉が待ち構えていた。