修復作業を⾏なっている真横に⽴つ警衛は研究所の前で⽴ち⽌まる⼩野⽊を⾒るや否や、
「炊き出しは向うだ」
と斜め向かいの炊き出し現場を指差した。
「いや、そうではないのですが……」
「どういうことだ」
警衛はまさか⽬前の⼈物が甲州の海軍少将別邸からの客⼈だとは知るわけもなく、怪訝な顔をして⾒せた。⼀⽅の⼩野⽊はそれまで⼿を添えていた⾃転⾞を置き直して警衛の前に⽴つ。⾝分を明かせばすぐに取り次いでもらえるだろうと、落ち着いた様⼦で話し始めた。
「私は⼩野⽊隆⾏と申す者でありまして、甲州に在ります⻑津少将別邸の⾨番を務めております。⾼橋⼤尉をお呼びいただければきっとお分かりいただけます」
少なくともこの研究所の⼈間は別邸のことくらいは知っている筈だ。ムッとした表情で⼩野⽊の話を聞いていた警衛であったが、
「はあ、あの⻑津少将の遣いか?果たして、どうだかな」
と取り合わない様⼦である。
「正確に申し上げますと⻑津⼤尉からのご要望で、 別邸の安否をお伝えしに参りました。是迄は使⽤⼈が参上しておりましたが、今⽇ばかりは昨夜のことで甲府は⼤変なことになっているであろうとのことで⼥に出向かせるわけにもいかず、私が出た次第です」
⼿振り⾝振りで警衛に説明する男を修繕作業の傍ら⾒ていたのは兵曹⻑であった。甲州の望⽉醸造所に出向いていた彼は毎度通りすがりに少将の別邸の前で⼀度⾃動⾞を降りては⾨番にひとつ声をかけていたので、この研究所では最も⼩野⽊と⾯識のある⼈間であった。漆喰の汚れの付いたシャツのその⼈物は⾸に掛けたタオルで額の汗を拭いながら警衛の元に向かう。
「炊き出しは向うだ」
と斜め向かいの炊き出し現場を指差した。
「いや、そうではないのですが……」
「どういうことだ」
警衛はまさか⽬前の⼈物が甲州の海軍少将別邸からの客⼈だとは知るわけもなく、怪訝な顔をして⾒せた。⼀⽅の⼩野⽊はそれまで⼿を添えていた⾃転⾞を置き直して警衛の前に⽴つ。⾝分を明かせばすぐに取り次いでもらえるだろうと、落ち着いた様⼦で話し始めた。
「私は⼩野⽊隆⾏と申す者でありまして、甲州に在ります⻑津少将別邸の⾨番を務めております。⾼橋⼤尉をお呼びいただければきっとお分かりいただけます」
少なくともこの研究所の⼈間は別邸のことくらいは知っている筈だ。ムッとした表情で⼩野⽊の話を聞いていた警衛であったが、
「はあ、あの⻑津少将の遣いか?果たして、どうだかな」
と取り合わない様⼦である。
「正確に申し上げますと⻑津⼤尉からのご要望で、 別邸の安否をお伝えしに参りました。是迄は使⽤⼈が参上しておりましたが、今⽇ばかりは昨夜のことで甲府は⼤変なことになっているであろうとのことで⼥に出向かせるわけにもいかず、私が出た次第です」
⼿振り⾝振りで警衛に説明する男を修繕作業の傍ら⾒ていたのは兵曹⻑であった。甲州の望⽉醸造所に出向いていた彼は毎度通りすがりに少将の別邸の前で⼀度⾃動⾞を降りては⾨番にひとつ声をかけていたので、この研究所では最も⼩野⽊と⾯識のある⼈間であった。漆喰の汚れの付いたシャツのその⼈物は⾸に掛けたタオルで額の汗を拭いながら警衛の元に向かう。



