石楠花の恋路

長津家は想像よりも大きな家族であった。さらにもれなく全員が海軍である。幸枝は長津が兵学校の出身だということを知っていたが、もしや全員が江田島(えたじま)に通ったのだろうか。もしそうだとすれば、この家族はとてつもないエリート一家である。こうもなると、代々武家だとか軍人一家の家系なのかもしれない。
「へえ、何と言いますか、大家族ですね。しかも皆さん海軍のかたなんて……ご家族全員が揃ってこちらにいらっしゃることも珍しいんじゃありません？私、東京で長津さんにお世話になっておりましたけれど、他の皆さんも東京にいらっしゃるとは限らないでしょう、外地や海上のかたもいらっしゃるでしょうし」
「そうですねえ、この屋敷も建ってから四十年くらいは経つけれども、私たちはその間留守居をして、小野木君が門番をして、そういった日々の方が長いですよ」
やはり長津家が揃ってこの屋敷にやってくることはそうそうないらしい。四十年もこの地にこの屋敷が建っているということは、代々引き継いできた建物なのだろう。