敵機を⾒ることにも空襲のサイレンを聞くことにもすっかり慣れてしまった頃、町は七⼣だといってささやかな短冊飾りや笹を⽤意していた。この⽇は珍しく屋敷でもとある使⽤⼈の呼び掛けで、 留守居から⾨番、 使⽤⼈、そして⼀⼈の客⼈が⼣べになって広間に集まった。⼩野⽊が町から貰ってきた笹を広間の隅に置くと、 少し遅くまで屋敷に残った使⽤⼈達、もとい少⼥達は弾けるような表情で短冊を掛けていく。 料理の腕を上げたいとか、もっと⼿早く裁縫をできるようになりたいだとか、それぞれがそれらしい願い事であった。 留守居や⾨番はやはりこの屋敷の安寧を願うような短冊を掛けたようであったが、幸枝は何を書こうかと思案していた。
七⼣というと棚機津⼥か、はたまた天の川の向うの牽⽜星か、 数々のロマンチックな伝説が語られる⽇である。彦星と織姫が出会えますように──そんな⼦どもじみた陳腐な願い事を書くのも如何なものか、ここは⼀つ無難なことを書いておこう。幸枝は「明⽇も今⽇と変わらぬ⼀⽇に」と書いた短冊を掛けたのであった。ささやかな七⼣の夜、幸枝はいつものように眠りに就いたのであったが、突然の凄まじい⾳に⽬を覚ましたのであった。航空機の⾳である。
(こんな夜中に来られちゃあ眠れないわ)
幸枝は眠い⽬を擦りながらカーテンの閉まった窓の⽅を眺めていたが、今晩はいつものようには⾏かなかった。 唸るような轟⾳とは別に、 遠くで花⽕のような⾳がして、幸枝はまさかと思い⾶び起きて数センチだけカーテンの端を捲った。すると、 瞬く間に町のさらに遠くの上空が光り、また破裂⾳が響き、さらに宵闇の中で街が炎上するのが⾒えた。
七⼣というと棚機津⼥か、はたまた天の川の向うの牽⽜星か、 数々のロマンチックな伝説が語られる⽇である。彦星と織姫が出会えますように──そんな⼦どもじみた陳腐な願い事を書くのも如何なものか、ここは⼀つ無難なことを書いておこう。幸枝は「明⽇も今⽇と変わらぬ⼀⽇に」と書いた短冊を掛けたのであった。ささやかな七⼣の夜、幸枝はいつものように眠りに就いたのであったが、突然の凄まじい⾳に⽬を覚ましたのであった。航空機の⾳である。
(こんな夜中に来られちゃあ眠れないわ)
幸枝は眠い⽬を擦りながらカーテンの閉まった窓の⽅を眺めていたが、今晩はいつものようには⾏かなかった。 唸るような轟⾳とは別に、 遠くで花⽕のような⾳がして、幸枝はまさかと思い⾶び起きて数センチだけカーテンの端を捲った。すると、 瞬く間に町のさらに遠くの上空が光り、また破裂⾳が響き、さらに宵闇の中で街が炎上するのが⾒えた。



