「伊坂様、御⾷事ができております」
いつものように階段の真下で使⽤⼈に出迎えられ、ひとり⾷卓につくと、 夏野菜の⼊ったリゾットに鶏の焼いたのを添えたものが⼀⽫、その横には胡⽠を使ったサラダが並んでいる。東京に居た頃よりも格段に厳しくなっているであろう⾷糧事情に逆らうかのような⾷卓は、かつて幸枝が⾃宅で過ごしていたような、⼆⼈の⼥中の⽤意した⾷事を無駄に広いテーブルの上で頂く⾷事と全く同じであるかのように感じた。何度か使⽤⼈や留守居に⼀緒に⾷事をしないかと提案したのだが、誰も規則だといって聞いてくれなかったのだから、彼⼥も諦めてこうして⼀⼈で⾷事を摂っている。 ⾷後には⼿製の饅頭と緑茶だとか、 何かしらの果物と紅茶とか、そういった類の⼝直しが必ず出されるが、幸枝はこのところ何処から⾷材や調味料を調達しているのかを気にしたり、以前⽜込の医者宅で⾷べたお世辞にも⾷事とは⾔い難いものを思い浮かべたりしながら茶を啜っている。
「ご馳⾛様です」
⾷卓の外に控えている使⽤⼈に会釈をして、⽞関へ向かう。 甲州で過ごすうち、幸枝にはひとつ⽇課ができた。それは、 毎⾷後⾨番のもとへ⾏くことである──特に⼤した理由は無いが、⽇夜⻑く⾨番を務めている彼に少しでも労いを掛けたいという個⼈的な感情で⾷卓から⽞関へと向かっている。扉をキイと開けると今⽇もあの逞しい背中が眩しい。
「⼩野⽊さん、ご苦労様です」
「有難うございます。昼⾷はもう召し上がりましたか」
いつものように階段の真下で使⽤⼈に出迎えられ、ひとり⾷卓につくと、 夏野菜の⼊ったリゾットに鶏の焼いたのを添えたものが⼀⽫、その横には胡⽠を使ったサラダが並んでいる。東京に居た頃よりも格段に厳しくなっているであろう⾷糧事情に逆らうかのような⾷卓は、かつて幸枝が⾃宅で過ごしていたような、⼆⼈の⼥中の⽤意した⾷事を無駄に広いテーブルの上で頂く⾷事と全く同じであるかのように感じた。何度か使⽤⼈や留守居に⼀緒に⾷事をしないかと提案したのだが、誰も規則だといって聞いてくれなかったのだから、彼⼥も諦めてこうして⼀⼈で⾷事を摂っている。 ⾷後には⼿製の饅頭と緑茶だとか、 何かしらの果物と紅茶とか、そういった類の⼝直しが必ず出されるが、幸枝はこのところ何処から⾷材や調味料を調達しているのかを気にしたり、以前⽜込の医者宅で⾷べたお世辞にも⾷事とは⾔い難いものを思い浮かべたりしながら茶を啜っている。
「ご馳⾛様です」
⾷卓の外に控えている使⽤⼈に会釈をして、⽞関へ向かう。 甲州で過ごすうち、幸枝にはひとつ⽇課ができた。それは、 毎⾷後⾨番のもとへ⾏くことである──特に⼤した理由は無いが、⽇夜⻑く⾨番を務めている彼に少しでも労いを掛けたいという個⼈的な感情で⾷卓から⽞関へと向かっている。扉をキイと開けると今⽇もあの逞しい背中が眩しい。
「⼩野⽊さん、ご苦労様です」
「有難うございます。昼⾷はもう召し上がりましたか」



