石楠花の恋路

居間に(しば)しの沈黙が流れ、暖炉の中で燃える(たきぎ)のぱちぱちという音が聴こえるだけになった。幸枝は喜三郎の話に対して何かしらの反応を返さなければならないと思っていたが、一家全員が軍人ならばこの豪華な邸宅はどうして手に入れたのかとか、どんな家庭なのかだとか、様々なことが気になって頭の中を巡り巡っている。たとえ主人が位の高い役職であったとしても、この邸宅がいつ建てられたかは分からないにせよ、ここまでの大きな家と調度品と、そして何より屋敷とその裏の森とを合わせた広大な土地を手に入れ維持することは困難だろう。
「業務に戻ります」
席を立ちコートを羽織った門番の一言で静閑(せいかん)な居間に会話が戻ってくる。幸枝は外へ出る彼に会釈(えしゃく)をして、話を続ける。
「長津さんのところは、皆さん海軍のかたなんです?」
喜三郎は暖炉の上に置いてある写真立てを手に取り、幸枝に見せながら答えた。額の中には五人の姿が写っている。夫妻とその子供達だろうか。
「はあ、御主人から一番下の御坊ちゃま(まで)みんな海軍ですよ。この立っているのが御主人で今は大佐だったかなあ、座っているのが奥様で、その横に立っているのが長男の武雄(たけお)坊っちゃまと次男の正博(まさひろ)坊っちゃま。奥様の膝の上に座っているのが三男の勇次(ゆうじ)坊っちゃまです。あとは写真には写っていないけれども、長女の芳子(よしこ)お嬢様と、四男の進司(しんじ)坊っちゃまもおります」