「今は酒石の為にワインを造っています、本当は飲んでもらうために造りたいが……。美味しいワインの造り方と酒石を沢山採るためのワインの造り方は違う。酒石用のワインを造り始めた頃、一度醸造所の皆で出来上がったものを飲んでみたことがありました。それがもう、薄い味の割にはえぐみが強くてとても飲めたようなものじゃあない。確かに普通のワインと同じで酒ではあるのですが、親父さんはこのワインは売りには出せないから棄ててしまう他無いと言って。酒石を出せば海軍からの報酬は有るし、得意先には今迄と同じように少しだけではあるが飲用のワインも造って売っているから資金繰りも困ってはいない。葡萄も隣の果樹園から貰ってくるし……まあ兎も角、ひどく不味いから棄てているんですよ」
実の話を聞いた幸枝は何とも言えない気分になった。
「そうだとしても、丹精込めて造ったものを全て棄ててしまうとは……お辛いでしょう?私達のような重工業の場合は造ったものは全て納品しますし、寧ろ次から次に注文が来るので生産を追い付かせるだけでも大変でしたが、御宅の場合は生産物を蔑ろにするということですし……私には製造物を破棄した経験が無いのでそのお気持を正確に推し量ることは出来ませんが、きっと大変なことだと……」
沈んだ幸枝の声に対して、実は突然立ち上がり声をやや荒げた。
実の話を聞いた幸枝は何とも言えない気分になった。
「そうだとしても、丹精込めて造ったものを全て棄ててしまうとは……お辛いでしょう?私達のような重工業の場合は造ったものは全て納品しますし、寧ろ次から次に注文が来るので生産を追い付かせるだけでも大変でしたが、御宅の場合は生産物を蔑ろにするということですし……私には製造物を破棄した経験が無いのでそのお気持を正確に推し量ることは出来ませんが、きっと大変なことだと……」
沈んだ幸枝の声に対して、実は突然立ち上がり声をやや荒げた。



