この手紙によって全てを知っている小野木は、いかにも幸枝の話に驚いたかのような顔を見せながら、彼女は長津家の次男のことをどう考えているのか、彼の気持に気づいているのかなどと推測しようとしている。
「……やっぱり、よく分からないわ」
小野木は隣で思い悩む女を見て、いっそ正博の話を全て言ってしまおうかと思いさえした。きっとこの人は正博と出会ってから、「何故」という疑問を抱え続けてきたのである。その答えを伝えたら、彼女はどんな顔をするだろうか。
「……あの」
「小野木さん、お昼です……あら、伊坂様!おかえりなさいませ」
屋敷から門番を呼んだ使用人は、客人の帰宅しているのを見て門前へと急ぎ足で歩いてきた。
「小野木さん、先程何か(おっしゃ)いました?」
「いえ、何も」
小野木は冷静な表情を見せているが、実際は胸を撫で下ろしつつ、客人と使用人を先に屋敷に送り、自らも使用人らとともに食卓についたのであった。