不本意だが、君も彼女と接していて魅力的な女性だと思っただろう。こんな感情を持った女性は幸枝さんだけだ。それで、俺はどうしても幸枝さんを守りたかった。東京でも、そうだった。本当は幸枝さんに気持を伝えたかった、そうしなければ己の理性を保つことすら話にならなかったのだが、俺が幸枝さんに愛していると言ったところでかえって彼女を困惑させ、今迄の関係を崩してしまうに違いないと思い、何も言わず、また顔にも出さず、心を鬼にしてやり過ごしてきた。それに、彼女は誰もが知る正に高嶺の花のような人だから、その意味でも彼女を失うのが怖かった。この俺にこんな恐れがあるとは何とも情けない話だが、正直なところ、自分が死ぬことより幸枝さんを失うことの方が俺にとっては辛いことになる。この手紙を書いている今でさえ、幸枝さんの姿を一目見たくて堪らない。外では到底口には出来ないが、この戦争が早く終われば良いと思っているし、もう軍人なんかやりたくないと思っている、これを言って何かが変わるものでもないのだから仕方のないことなのだが。要はそういうことだから、もしも俺が今後の任務で死んだら、最後に幸枝さんに伝えてくれ、俺は幸枝さんを愛していると。そして、これまでの質問の答も全てこれに尽きると。当然生きて戻りたいが、何が起こか分からない。よろしく頼む」
小野木は手紙を自らの傍に置き、一つ溜息を吐く。とんだ大役を任されてしまった。いや、まだこのことを大役だと考えるのは時期尚早だが、こうして手紙を読んでいると、幸枝の思う正博と自分の思う正博の人間像に差異があることにも頷けた。
小野木は手紙を自らの傍に置き、一つ溜息を吐く。とんだ大役を任されてしまった。いや、まだこのことを大役だと考えるのは時期尚早だが、こうして手紙を読んでいると、幸枝の思う正博と自分の思う正博の人間像に差異があることにも頷けた。



