幸枝は「軍人らしからぬ軍人と思しき真の軍人」に慣れていた所為で、大尉の態度がいやに高圧的に思われた。階級としては非常に高位なわけではないが、佐官に近づくにつれて高慢になっていくのだろうか。幸枝は多少の苛立ちを覚えながらも笑顔で返す。
「ええ、伊坂工業の伊坂幸枝と申しますけれども、先週、望月醸造所のかたにお問合せしたところ本日皆様がいらっしゃるとのことでしたので、私もそれに合わせて見学させていただこうかと……普段のワイン造りのお仕事のお邪魔になってはいけませんから」
嫌味を含んだ彼女の口調は大尉らにも伝わったようで、また咳払いをした彼は早々に居間を出て行く。少尉もそれについていくように慌ただしく部屋を出ていった。居間に残ったのは幸枝と兵曹長のみである。幸枝は早く行かなければ上官に遅れて叱られるだろうにこの人は何を突っ立っているのだろうと兵曹長を見ていたが、彼は幸枝に目配せをして、
「お先に。外で自動車が待っています」
と幸枝の退出を促した。一度視線を逸らした幸枝は再び兵曹長に目を向け、会釈をしてから居間を出る。そうすると後ろから兵曹長も付いてきて、使用人や門番に一声掛ける幸枝と共にすでにエンジンの掛かった自動車に乗り込んだ。助手席に幸枝を乗せた兵曹長は自らハンドルを握り自動車を動かす。数分もしないうちに一行は醸造所に到着し、所有者と思われる夫婦が大尉らを出迎えた。
「ええ、伊坂工業の伊坂幸枝と申しますけれども、先週、望月醸造所のかたにお問合せしたところ本日皆様がいらっしゃるとのことでしたので、私もそれに合わせて見学させていただこうかと……普段のワイン造りのお仕事のお邪魔になってはいけませんから」
嫌味を含んだ彼女の口調は大尉らにも伝わったようで、また咳払いをした彼は早々に居間を出て行く。少尉もそれについていくように慌ただしく部屋を出ていった。居間に残ったのは幸枝と兵曹長のみである。幸枝は早く行かなければ上官に遅れて叱られるだろうにこの人は何を突っ立っているのだろうと兵曹長を見ていたが、彼は幸枝に目配せをして、
「お先に。外で自動車が待っています」
と幸枝の退出を促した。一度視線を逸らした幸枝は再び兵曹長に目を向け、会釈をしてから居間を出る。そうすると後ろから兵曹長も付いてきて、使用人や門番に一声掛ける幸枝と共にすでにエンジンの掛かった自動車に乗り込んだ。助手席に幸枝を乗せた兵曹長は自らハンドルを握り自動車を動かす。数分もしないうちに一行は醸造所に到着し、所有者と思われる夫婦が大尉らを出迎えた。



