正直なところ、幸枝には実の発する訛りきった言葉の意味するところがほとんど分からず、しかし彼はどこか急き立てるような口調であるから普通に話してくれと頼むのも気が引けている。続々と青年の口から出てくる聞き慣れない音に狼狽えていると、彼は長椅子から立ち上がり幸枝の隣へと出た。幸枝がほんの少し背伸びをすれば目線が合いそうな背丈の彼は、駅のある町を真っ直ぐに見つめて再び尋ねる。
「……東京から、来たんですか」
「ええ。運良く知人といいますか、友人といいますか……伝手が有ったもので。長津さんのこと、ご存知で?」
幸枝が自らの言葉を理解しないことを察した実は、慣れないながらも彼女に合わせて綴方の授業で習ったような話し方で続ける。
「はい。この町の人ならあの家族のことは皆知っています。お父さんから子供迄全員が海軍の軍学校出身で、僕たちの憧れです。夏や冬になると時々家族で町に来て、色々なものを買っていってくれますし、僕の居る醸造所にも来て、ワインをうんと買ってくれます。醸造所には長津さんのための樽も特別に置いてあります。夏か秋かの頃にも、使用人のひとが次男さんの言付けだと言って赤ワインと白ワインを買っていってくれました」
漸く実の言うところを理解した様子の幸枝は、その表情が苦笑いからパッと咲く花のような笑みに変わって、手を合わせて思い出したように話し始める。
「……東京から、来たんですか」
「ええ。運良く知人といいますか、友人といいますか……伝手が有ったもので。長津さんのこと、ご存知で?」
幸枝が自らの言葉を理解しないことを察した実は、慣れないながらも彼女に合わせて綴方の授業で習ったような話し方で続ける。
「はい。この町の人ならあの家族のことは皆知っています。お父さんから子供迄全員が海軍の軍学校出身で、僕たちの憧れです。夏や冬になると時々家族で町に来て、色々なものを買っていってくれますし、僕の居る醸造所にも来て、ワインをうんと買ってくれます。醸造所には長津さんのための樽も特別に置いてあります。夏か秋かの頃にも、使用人のひとが次男さんの言付けだと言って赤ワインと白ワインを買っていってくれました」
漸く実の言うところを理解した様子の幸枝は、その表情が苦笑いからパッと咲く花のような笑みに変わって、手を合わせて思い出したように話し始める。



