初めこそ見た目は図体が大きくて妙に不器用に見えていたが、その身のこなしはスマートそのもので、少し話しただけでも普通の軍人とは何かが違うと、幸枝はそう思わされたのである。冷酷に見えながらもその言葉には常に思いやりのようなものが感じられ、きりりと締まった視線もこちらを見るときだけほんの少し丸くなる。優しさがある一方で、やはり軍人気質なのかきつい物言いの時もあった。しかしそれは幸枝に向けてではなく、また伊坂家に向けてでもなく、例えば憲兵や同僚、そういった類の人に対してである。出会って間もない頃、家族の問題に惨めさを感じた幸枝は突然現れた彼に対して令嬢らしからぬ悪態をついたが、彼は怒鳴りつけることも責め立てることもなく、ただ自らの身体で彼女を包み、落ち着きのある低い声で諭したのである。彼女にとってはそれが、いよいよ顕になった家族の亀裂と同じくして幾つもの穴の開いたその心を埋めていくような、そんな優しさに包み込まれたと思えた。本来業務外で彼と会うことは望ましくない筈であったが、気がつけば知人として、友人として──業務の枠を外れて親しくなっていた。その過程の中には裏切られたと感じたことも、軍人としての彼に恐怖したこともあるし、かえって彼の誠実さや心掛けに気付かされたこともある。



