⽗は娘の帰りを待ち侘びていた。 度重なる敵機からの攻撃に耐える中で、 甲州の地へと旅⽴った愛娘との再会を希望に⽣きてきた。 ⽣まれ育ち、事業を続けてきたこの街が焼け野原になろうと、 従業員や⼯員や資機材の多くを失おうとも、ただこの⽇を願い続けていた。 娘の細い肩をがっしりと掴んだ⽗の⽬には⼤粒の涙が浮かんでいたようであったが、涙を流すのを堪えて待ち望んだこの瞬間を噛み締めている。
「お⽗さま、お兄さま……ただいま戻りました。お⼆⼈ともご無事で……」
「ああ、幸枝……よく、よく戻ってきた」
固く抱き合う⽗と娘、そしてその傍で涙ながらに妹の帰京に安堵する兄。 正博はそんな家族の姿を反対側の路地から眺めていた。
「此処迄はどうして戻ってきたのかい」
久しく会う娘との再会を喜んだ⽗は、 娘にそう尋ねた。よくよく⾒てみると、 甲州に向かう際に持っていた旅⾏鞄も持たず⼿ぶらである。
「あ、それは……⻑津さんがお迎えに来て下すって……あれ、⻑津さんは」
幸枝はてっきり正博が近くに居るものかと思っていたが、彼は少し⾒まわしたところに⼤きな旅⾏鞄を⽚⼿に⽴っていた。幸枝が正博に⽬配せをしたので、彼は道路を渡り幸枝のもとへやってきた。
「君か」
「はい」
⽗は苦⾍を噛んだ表情を⾒せる。この⼈は娘が世話になり、 海軍との取引で事業が⽀えられた部分もあったので無下に扱うことはできないのだが、敗戦してもこの⼈物が軍⼈であったことは変わらぬ事実である。これから再出発する会社のためにも、不名誉な繋がりは避けたいというのが⽗の本⾳だ。
「お⽗さま、お兄さま……ただいま戻りました。お⼆⼈ともご無事で……」
「ああ、幸枝……よく、よく戻ってきた」
固く抱き合う⽗と娘、そしてその傍で涙ながらに妹の帰京に安堵する兄。 正博はそんな家族の姿を反対側の路地から眺めていた。
「此処迄はどうして戻ってきたのかい」
久しく会う娘との再会を喜んだ⽗は、 娘にそう尋ねた。よくよく⾒てみると、 甲州に向かう際に持っていた旅⾏鞄も持たず⼿ぶらである。
「あ、それは……⻑津さんがお迎えに来て下すって……あれ、⻑津さんは」
幸枝はてっきり正博が近くに居るものかと思っていたが、彼は少し⾒まわしたところに⼤きな旅⾏鞄を⽚⼿に⽴っていた。幸枝が正博に⽬配せをしたので、彼は道路を渡り幸枝のもとへやってきた。
「君か」
「はい」
⽗は苦⾍を噛んだ表情を⾒せる。この⼈は娘が世話になり、 海軍との取引で事業が⽀えられた部分もあったので無下に扱うことはできないのだが、敗戦してもこの⼈物が軍⼈であったことは変わらぬ事実である。これから再出発する会社のためにも、不名誉な繋がりは避けたいというのが⽗の本⾳だ。



