翌朝早く、⼆⼈は街が動き出す前に横須賀を出た。 夜明け間もないこの街は⼈の影も薄く、やたらと暗い。 やや冷えた空気の中を⾜早に抜けて、いち早く東京に⼊った。⽬指す先は本所である。昨⽇の⼣、業⽕に包まれたかのような橙⾊に染まっていたこの街は、朝になって⾒てみると寂れた廃墟のようである。本社へと急いた⾜取りで進む幸枝の隣で、正博は周囲に⽬を配りながら歩いている。
幸枝の脳裏には昨晩⾒た、 箒の⽴てかけられた踊り場がくっきりと浮かんでいる。あの場所に、 ⽗でも兄でも、 従業員でも、誰かが居るのではないかと期待を込めて、 本社の⽬の前で⽴ち⽌まった。 昨⽇⾒たところに箒はなかったが、静まり返った朝のやや冷たい空気の中で、どこからかサッサッと地⾯と草の擦れる⾳が聞こえてくる。
「お⽗さま、お兄さま!私です……幸枝です。何⽅かいらっしゃいませんか」
辺りは⼀時の静寂に包まれた。幸枝は誰も居ないのかと落胆し、 今後の⽣活に思いやられて溜息を吐こうとしたところであったが、
「幸枝!」
昨⽇は箒だけあったその場所に、⽗が⽴っていた。背後には兄も居る。
「お⽗さま、お兄さま……!」
幸枝は居ても⽴っても居られない気持で思わず⼆⼈の元へ駆けようとしたが、右⼿の貼り
紙を⾒て⽴ち⽌まる。
「おお、幸枝は其処で待っていてくれ。今⾏くからな」
⽗も慌てた様⼦で階段を降り、 兄はドタバタとした⽗の様⼦を不安気に⾒ながらも、その後
に付いて本社の前へやって来た。
「幸枝……よく帰ってきたなあ、幸枝……」
幸枝の脳裏には昨晩⾒た、 箒の⽴てかけられた踊り場がくっきりと浮かんでいる。あの場所に、 ⽗でも兄でも、 従業員でも、誰かが居るのではないかと期待を込めて、 本社の⽬の前で⽴ち⽌まった。 昨⽇⾒たところに箒はなかったが、静まり返った朝のやや冷たい空気の中で、どこからかサッサッと地⾯と草の擦れる⾳が聞こえてくる。
「お⽗さま、お兄さま!私です……幸枝です。何⽅かいらっしゃいませんか」
辺りは⼀時の静寂に包まれた。幸枝は誰も居ないのかと落胆し、 今後の⽣活に思いやられて溜息を吐こうとしたところであったが、
「幸枝!」
昨⽇は箒だけあったその場所に、⽗が⽴っていた。背後には兄も居る。
「お⽗さま、お兄さま……!」
幸枝は居ても⽴っても居られない気持で思わず⼆⼈の元へ駆けようとしたが、右⼿の貼り
紙を⾒て⽴ち⽌まる。
「おお、幸枝は其処で待っていてくれ。今⾏くからな」
⽗も慌てた様⼦で階段を降り、 兄はドタバタとした⽗の様⼦を不安気に⾒ながらも、その後
に付いて本社の前へやって来た。
「幸枝……よく帰ってきたなあ、幸枝……」



