その場に座ったままの幸枝は濡れた表情を⾒せながらも⾸を振る。横髪を⽿に掛けたので露わになった薄い⽿朶は紅く染まっている。
「あの、私……⻑津さんなら、その……」
幸枝はもじもじとして⼝篭っている。
「……⻑津さんにならば、私の総てをお⾒せしても良いと思うのです」
麗らかに潤んだ丸い瞳には無表情な男の顔が映っていた。男は何も⾔わず、また表情で何かを語ることもなく、ただ⼥の⿊い瞳に吸い込まれるように彼⼥のしおらしい姿に魅了されている。
「私ったら、おかしなことを⾔ってしまいましたわ……すみません」
ふっと男から顔を背けた⼥の断髪が揺れた。
「幸枝……さん」
宵闇に溶けた⿊髪を掻き分けるように男の⼿が伸び、 ⽉影に隠れた頬に触れる。 右の頬を硬く温かな⼿が包み込み、⼥の視線は⾃然とその⼿の先へ、腕を伝うように流れていく。⼥の名を呼ぶ男の表情は真剣そのもので、⼀⽅の⼥はその男の引き締まった⾯持ちに気を取られたか、夜露のように濡れた新⽉が如き円く⿊い眼を向けている。
⼆⼈は⼀⾔も交わさなかったが、その代わりに両者の艶やかな吐息が互いの⼝元を掠め、その距離はどちらからともなく次第に近くなってゆく。やがて⼥の両頬は男の⼤きな掌に包まれ、男は⼥の可憐な⾯⽴ちと希少な宝⽯によく似た眼に吸い込まれるようにして⾃らの顔を近づけた。⻘⽩い⽉明かりに照らされた⼆つの⼈間の影が⼀つとなった時、男の⼝元に⼥の柔らかく⼩さな⾚い唇が触れ、 軽く閉じた⼥の⽬の端から⼀筋の涙が溢れる。
「あの、私……⻑津さんなら、その……」
幸枝はもじもじとして⼝篭っている。
「……⻑津さんにならば、私の総てをお⾒せしても良いと思うのです」
麗らかに潤んだ丸い瞳には無表情な男の顔が映っていた。男は何も⾔わず、また表情で何かを語ることもなく、ただ⼥の⿊い瞳に吸い込まれるように彼⼥のしおらしい姿に魅了されている。
「私ったら、おかしなことを⾔ってしまいましたわ……すみません」
ふっと男から顔を背けた⼥の断髪が揺れた。
「幸枝……さん」
宵闇に溶けた⿊髪を掻き分けるように男の⼿が伸び、 ⽉影に隠れた頬に触れる。 右の頬を硬く温かな⼿が包み込み、⼥の視線は⾃然とその⼿の先へ、腕を伝うように流れていく。⼥の名を呼ぶ男の表情は真剣そのもので、⼀⽅の⼥はその男の引き締まった⾯持ちに気を取られたか、夜露のように濡れた新⽉が如き円く⿊い眼を向けている。
⼆⼈は⼀⾔も交わさなかったが、その代わりに両者の艶やかな吐息が互いの⼝元を掠め、その距離はどちらからともなく次第に近くなってゆく。やがて⼥の両頬は男の⼤きな掌に包まれ、男は⼥の可憐な⾯⽴ちと希少な宝⽯によく似た眼に吸い込まれるようにして⾃らの顔を近づけた。⻘⽩い⽉明かりに照らされた⼆つの⼈間の影が⼀つとなった時、男の⼝元に⼥の柔らかく⼩さな⾚い唇が触れ、 軽く閉じた⼥の⽬の端から⼀筋の涙が溢れる。



