後ろに下がった正博は、やや離れた場所から幸枝の表情を再び窺う。 少し遠くから眺める⼥の頬に⽔滴の流れるのが薄らとした⽉光に照らされて輝いているのが⾒えた。
「幸枝さん」
「まあ、嫌だわ。私ったら……」
⾃らの名を呼ぶ声を遮った幸枝の表情は震えている。 部屋には⼥の咽び声が響き、 ⽉明かりもどこか濡れたように揺らめいている。
「──泣きたい時は、泣けば良い」
怯え悲しむ幸枝の様⼦を⾒兼ねた正博は、思わず幸枝の⼩さな⾝体を包み込むように彼⼥を抱き締めた。 ⼤きく揺れた⼥の⼼を宥めるように頭と背中を撫でながら、⽿元で、
「⼤丈夫だ、俺が居る」
と呟く。 正博が⾃ら⼥を抱擁したのは、 ⾬上がりの夜の⽇本橋以来である。 他の⼥に抱き付かれても⼿すら添えず迷惑そうな顔をしていた正博であるが、幸枝に対してだけは⾃ら望んでこうしているのである。
幸枝は暫く正博の胸の中でわあわあと声を⽴てて泣いていたが、少し経つと落ち着いたようで、正博に抱えられたまま座っていた。
「君が⼼配するのはよく分かる。親しい⼈の⽣死も分からず唯⾃分だけが⽣きているというのは、それだけで不安を駆り⽴てる」
「⻑津さんにも、そういった御経験が有るのですか」
正博は⾃らの腕の中から聞こえるか細い声に⽿を傾け、幸枝を抱えたまま頷く。
「幸枝さん」
「まあ、嫌だわ。私ったら……」
⾃らの名を呼ぶ声を遮った幸枝の表情は震えている。 部屋には⼥の咽び声が響き、 ⽉明かりもどこか濡れたように揺らめいている。
「──泣きたい時は、泣けば良い」
怯え悲しむ幸枝の様⼦を⾒兼ねた正博は、思わず幸枝の⼩さな⾝体を包み込むように彼⼥を抱き締めた。 ⼤きく揺れた⼥の⼼を宥めるように頭と背中を撫でながら、⽿元で、
「⼤丈夫だ、俺が居る」
と呟く。 正博が⾃ら⼥を抱擁したのは、 ⾬上がりの夜の⽇本橋以来である。 他の⼥に抱き付かれても⼿すら添えず迷惑そうな顔をしていた正博であるが、幸枝に対してだけは⾃ら望んでこうしているのである。
幸枝は暫く正博の胸の中でわあわあと声を⽴てて泣いていたが、少し経つと落ち着いたようで、正博に抱えられたまま座っていた。
「君が⼼配するのはよく分かる。親しい⼈の⽣死も分からず唯⾃分だけが⽣きているというのは、それだけで不安を駆り⽴てる」
「⻑津さんにも、そういった御経験が有るのですか」
正博は⾃らの腕の中から聞こえるか細い声に⽿を傾け、幸枝を抱えたまま頷く。



