「布団を⽤意するよ。 ⽤意が出来たら戻って来るから、幸枝さんはそれまで休んでいると良い」
「あっ、⻑津さん……」
何から何までしていただかなくても、と⾔いたかった幸枝は、蝋燭の⽕を消して隣の部屋へ向かう。
「⻑津さん、何から何までしていただかなくても……」
「いいや、幸枝さんは、今⽇は俺の客⼈だからな。それに、俺がしたくてしているんだ。これも好意だと思って受け取ってくれよ」
正博は畳の上で布団を広げながら話している。
「さあ、⽀度は出来た。鞄を持って来るから少し待っていてくれ」
数畳の部屋には灯りも無く、⼩窓から差し込む⽉明かりに照らされて微かに⻘⽩く照らされているばかりである。外からは時々誰かが話しながら歩いていくのが聞こえるのみで、それ以外の⾳は聴こえない。幸枝が枕の側にちょこんと正座をして部屋を観察しているうちに、すぐ隣の廊下に⾜⾳が近づいてきた。先ほど押⼊れからもう⼀組の布団を取り出して部屋を出た正博は、今度は幸枝の旅⾏鞄を持って部屋に戻ってきた。
「有難うございます……」
旅⾏鞄を受け取った幸枝の表情は些か暗く⾒えたが、それは光源が⽉明かりに限られたこの部屋そのものの暗さの所為だろううか。
「すまないな、質素な部屋で」
「いえ、そんなことは……⼀晩泊めて下さるだけでも⼤変有り難いですわ」
幸枝は鞄を傍に置き、硬い笑みを⾒せる。⼥の乾いた笑いが狭い部屋の中で僅かに反響した。
「あっ、⻑津さん……」
何から何までしていただかなくても、と⾔いたかった幸枝は、蝋燭の⽕を消して隣の部屋へ向かう。
「⻑津さん、何から何までしていただかなくても……」
「いいや、幸枝さんは、今⽇は俺の客⼈だからな。それに、俺がしたくてしているんだ。これも好意だと思って受け取ってくれよ」
正博は畳の上で布団を広げながら話している。
「さあ、⽀度は出来た。鞄を持って来るから少し待っていてくれ」
数畳の部屋には灯りも無く、⼩窓から差し込む⽉明かりに照らされて微かに⻘⽩く照らされているばかりである。外からは時々誰かが話しながら歩いていくのが聞こえるのみで、それ以外の⾳は聴こえない。幸枝が枕の側にちょこんと正座をして部屋を観察しているうちに、すぐ隣の廊下に⾜⾳が近づいてきた。先ほど押⼊れからもう⼀組の布団を取り出して部屋を出た正博は、今度は幸枝の旅⾏鞄を持って部屋に戻ってきた。
「有難うございます……」
旅⾏鞄を受け取った幸枝の表情は些か暗く⾒えたが、それは光源が⽉明かりに限られたこの部屋そのものの暗さの所為だろううか。
「すまないな、質素な部屋で」
「いえ、そんなことは……⼀晩泊めて下さるだけでも⼤変有り難いですわ」
幸枝は鞄を傍に置き、硬い笑みを⾒せる。⼥の乾いた笑いが狭い部屋の中で僅かに反響した。



