その日は、冷たい雨が降っていた。
午後の授業が終わり、教室に残る生徒は少なかった。
カーテンの隙間から見える灰色の空は、どこか現実感がなかった。
凛は自席で静かにノートを閉じる。ふと気配を感じて顔を上げた。
悠翔の席が空になっていた。
(……教室を出た?)
嫌な胸騒ぎがした。即座に立ち上がり、教室を出る。
廊下を進む足取りに迷いはなかった。凛の中で、悠翔の行動パターンは既に読み取られている。
屋上ではない。職員室の裏手――人目を避けたその場所。
扉の前に立ち、凛はゆっくりとドアを押し開けた。
そこにいたのは、壁に背を預けて膝を抱えた悠翔だった。
「……天城」
呼びかけに反応し、悠翔は小さく肩をすくめた。
「あ、ごめんなさい……探させちゃいました?」
「何があった」
「……何でもないですよ。ちょっと疲れただけ」
その笑顔が、いつもよりずっと弱々しかった。
凛は静かに扉を閉め、中に入る。悠翔の隣にしゃがみこみ、目線を合わせた。



