護衛対象は、予測できない。

 そのことを、神代凛は今、思い知っていた。

 朝の登校、廊下の移動、昼休み――
 凛は一分一秒、天城悠翔から目を離さなかった。
 任務として。それが全てだった。

 ……最初は、そうだった。


 「凛さーん、悠翔くん、こっちで一緒にご飯食べましょー!」


 昼休み、クラスメイトの誰かが声をかけてきた。
 無邪気なその呼びかけに、悠翔がわずかに困ったように視線を向けてくる。


「神代さん……どうしよう、行ったほうがいい、かな……?」


 凛は軽く首を横に振った。


「断っていい。無理する必要はない」

「……ありがとう」


 また、それだ。
 あの微笑み。無防備で、どこか儚くて、見ていると胸の奥が熱を帯びる。

 凛は深く息を吸い、心の中で打ち消した。


 (任務だ。私はこの子を守るだけ。感情に流されてはいけない)


 だが、それでも。
 日常という名の“油断”が、凛の感情に少しずつヒビを入れていく。