そのとき、悠翔の机の脚が少し音を立ててズレた。
慌てて押し戻そうとした手元から教科書が滑り落ち、机の下に落ちる。
「あっ……」
反射的に凛が手を伸ばし、拾い上げる。
何のためらいもなく、完璧な動作で。悠翔が驚いたように目を見開く。
「ありがとう……ございます」
凛は一言も返さず、ただ教科書を差し出した。その瞬間、数人の女子たちがこっそり悲鳴を上げる。
(え、今の見た!?王子がもう一人の王子に教科書拾ってあげたんだけど!?)
休み時間。廊下のあちこちでうわさが飛び交っていた。
「ねえ、転入生、やばくない?」
「ちょっと天然系で、守ってあげたくなる感じ~」
「いやでもやっぱ、凛様は別格よ。あの余裕、マジで王子。なんなのあの存在感」
(※凛のファンはすでに「凛様親衛隊」なる非公式ファンクラブを形成済み)
だが、当の本人たちはそれを意にも介さず、隣り合って教室の端で静かに座っていた。
悠翔が、勇気を振り絞って声をかける。



