声は小さく、しかし礼儀正しく、まっすぐだった。
 凛はわずかに目を細める。表情は変わらないが、その背筋には微かな緊張が走る。

 (問題なし。現在のところ危険要素なし。表情に不安、視線は落ち着きがない。環境に慣れていない証拠。…誘導は可能)

 凛は、護衛対象の初出勤――いや、「初登校」を冷静に見つめていた。

 教師が続ける。


 「特例措置での受け入れになります。皆さん、協力してあげてくださいね。では天城君、そこの席へどうぞ。神代さんの隣です」


 悠翔が凛の隣に座る瞬間、女子たちの間に小さな“黄色い悲鳴”が起こる。


「え、凛様の隣!?」
「うわ、絵面つよっ……」


 だが、凛は悠翔に一瞥をくれただけで、窓の外へ視線を戻した。

 悠翔は緊張した面持ちで凛に目を向け、小さく頭を下げる。


 「……はじめまして。僕、天城です」

 「……神代凛。よろしく」


 凛の声は低く、落ち着いていた。
 だがその胸の内には、任務の重さとは違う、わずかなざわめきがあった。

 (護衛対象はこれまでモニター越しだった。実際に接近してわかる……この子は、思っていたよりずっと、――華奢だ)