春、桜が咲いていた。

 東京の官邸前、厳重な警備の合間を縫って、ひとりの青年がふと足を止める。

 天城悠翔――かつて「護られるだけの存在」だった彼は、今、自ら国際政策の道を歩み始めていた。

 その横には、変わらぬ強さと美しさを携えた、彼女がいる。

 神代凛。

 今では政府公認のSPとなり、天城家の後継者である悠翔の正式な護衛となっていた。

 だが、彼女の中では、肩書きも、立場も、ある感情の前には無意味なものだった。


 (私がこの手で守ると誓ったのは、“任務”じゃない)

 (……この人を、心から――)

 「……考え事?」


 悠翔が笑って凛を見る。