女子高の朝は、想像よりもずっと騒がしい。
 教室に満ちる声の洪水、香水の匂い、窓から差し込む柔らかな陽光。

 神代凛は教室の一番後ろ、窓際の席に静かに腰を下ろしていた。
 制服のネクタイを少しゆるめ、腕を組む。背筋はまっすぐ、姿勢に一切の隙がない。


「ねえ、あの子って転入生でしょ?」
「かっこよすぎるってウワサ…」

 小声が教室を漂う。凛の存在感は、ただ座っているだけで周囲を黙らせた。

 だが今日、視線はもうひとつの方向へ集中していた。

 ホームルーム開始直前。教師が扉の前でひとつ咳払いをし、穏やかに告げる。


 「皆さん、今日から新しいクラスメイトが加わります。天城悠翔(あまぎゆうと)君です」


 その瞬間、教室がざわめいた。


「え、男の子!?」
「うそでしょ!?男子禁制じゃなかったの?」


 扉の向こうから現れたのは、まるで童話から抜け出してきたような少年だった。
 艶のある淡い茶色の髪。透き通るような白い肌。大きな瞳は不安そうに揺れ、華奢な身体に制服が少しだけ泳いでいる。スカート履いても分からなそうな体型だな。


 「……天城悠翔です。よろしくお願いします」