空は晴れていた。
 けれど、凛の胸の中には黒い雲が渦巻いていた。

 朝の校門。いつものように登校する悠翔のそばには、凛の姿があった。
 だがその視線は、あらゆる死角と危険を見逃さない鋭さに戻っていた。


 (動きがある。今日、何かが“起こる”)


 ――それは直感ではなく、確信だった。

 昨日の不審者、警備の隙間、複数の“視線”。
 すべてが、今この瞬間へ収束していく。

 悠翔が、そっと凛にささやいた。


 「……今日、顔が怖いよ」

 「……気のせいだ」

 「……でも、頼りになる」


 その言葉に、凛はほんのわずかに唇を緩めた。


 (君がそう言うなら、私は迷わない)