けれど――

 その温かな余韻を、鋭く引き裂くように、風の中にひとつの音が響いた。

 カシャン――

 金属音。近くで何かが落ちたような――

 凛が即座に反応する。


 「誰だ!」


 茂みの中に、人影が揺れた。
 次の瞬間、それは塀を超えて姿を消した。

 悠翔の手を強く握り、凛は周囲を警戒しながら言った。


 「……やはり、来ている」

 「誰が?」

 「……“敵”だ。悠翔、明日から警護体制を変える。
 今後、私は君から一秒も目を離さない」

 「……それって、学校でも?」

 「トイレ以外はな」

 「……それ、ちょっと恥ずかしいかも」


 凛が思わず吹き出した。
 それは、不安を誤魔化すような、小さな微笑みだった。


 (この平穏は、もう長くは続かない。だが――)

 (それでも、私はこの子を――絶対に守る)