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 帰り道、雨は上がっていた。

 悠翔は少しだけ笑顔を取り戻し、凛と肩を並べて歩いていた。
 手はもうつないでいなかったが、温もりはまだ残っている。


 「……さっきは、ありがとう」

 「礼は不要。私は君のSPだ」

 「……じゃあ、もう少しだけ、わがまま言ってもいい?」


 凛が横目で彼を見る。


 「内容による」

 「明日も……僕の隣にいてください」


 それは、守ってほしいという意味ではなかった。

 凛の口元が、ほんのわずかにほころぶ。


 「……了解。護衛対象の希望として受理する」


 悠翔が、安堵と嬉しさが入り混じったような顔で笑った。

 その笑顔が、もう“任務”の枠では処理できないものだと、凛は気づいていた。